第29話 赤木が俺のことをボッチ認定してくるのだが?

「おいおい。鳩が豆鉄砲喰らったみてぇな表情しやがってよぉ。そんなに嬉しいのかよぉお?」


 え?


「嬉しい?」


 そんな表情は1ミリも見せたつもりはないが?


「まぁ、気持ちはわかるぜ。ケヘヘ。こういうの、なんていうんだ? 感動の再会? 雨降って地固まる? それとも元鞘に戻るって言うのかな? ケハハ。ちょっと照れくさいけどよ」


「いや。勝手に照れるんじゃない。誰も戻るとは言っていないぞ」


「おいおいおーーい。冗談きついぜぇ」


「それはおまえの顔だ」


「うぐぅうう!!」


 それにどういうつもりだよ。

 俺のことは無能扱いだったのにさ。


「そもそも。俺なんかがパーティーに戻っても迷惑をかけるだけだろう?」


「ははは……。ま、まぁそれがな。色々あってよ。……も、戻してやってもいいかなってよ。ケハハ。思ったわけだ」


「ふむ。それはそれはお優しい考えだな」


「おいおい! まさか、おまえ、怒っているんじゃねぇよなぁ?」


 はぁ?


「なぜだ? 俺が怒る理由がどこにある?」


「だってよぉ。以前のおまえだったらよぉ。もっと、俺たちに気を使うのが当たり前の奴だったぜ?」


「それはそうだな。パーティーの役に立とうとして必死だったらからな」


「じゃあ、なにか。今はパーティーのために気を使っていないっていうのかよぉお!?」


「ああ。全く使っていないな」


「にゃにぃいいい!? てめぇこらぁあああああ!?」


 いや激昂する意味がわからん。


「俺がおまえたちに気を使う理由がないだろう」


「ふざけんなよ片井ぃいいい!!」

「そうです!! 片井の分際で生意気すぎます!!」

「そうよ! 無能の片井が、なにをイキリまくってんのよぉおお!! 気持ち悪いのよ!! イキリ片井がぁあああ!!」


 はぁ……。

 やれやれだな。

 俺は生意気でもイキっているわけでもない。

 強いて言うなら、


「呆れているんだ。おまえらと会話をすることすら億劫だよ」


「なんだと、こらぁああ!? てめぇ、それが仲間に対する言葉かよ! この人でなしがぁああ!!」


 あのなぁ。


「俺とおまえたちが仲間だと? よくも言えたもんだな。あんな扱いをしておいてさ」


「は、ははは。ドッキリ企画の話か? あんなのはジョークだぜ! 仲間なら笑って流せるじゃねぇかよ!」


 やれやれ。

 ジョークで人のことを無能と罵ったり、ゴミクズ人間と罵倒したりできるのだからな。


「それが呆れると言ったんだ。おまえたちは人として最低だ。ゴミクズ以下の存在だよ」


「なんだとぉおお!? 仲間に対する扱いがそれかよ! てめぇの暴言こそが人として最低な行為だろうが!!」

「そうです。赤木のいうとおりです」

「論破成功よ!! 謝りな片井!!」


 いやいや。

 どこに論破できた流れがあったんだよ。


「俺とおまえたちが仲間だなんて反吐が出るな。仲間というのは相手のことを思いやるものだろう。おまえたちにそんな仕草は1ミリも感じられなかったじゃないか」


「てめぇこの野郎! 俺様の思慮深い態度がわからねぇのか!?」


「全然わからん」


「ふざけんな! てめぇが寂しい思いをしてんじゃねぇかと思ってよぉおお! またパーティーに戻してやろうとしたんじゃねぇか!! このボケナスがぁああ!!」


 ほぉ。それはそれは。


「どういう理由で俺が寂しい思いをしていると思ったのか知らんが、いらんお世話だ。そういうのを迷惑というんだ」


「にゃにぃいい!? め、め、迷惑だとぉおおお!?」


 ああ、少し正確じゃなかったもしれん。


「大迷惑だな」


「ふざけんなぁあああ!! てめぇみてねぇなボッチがよぉお!! モテねぇ男が1人で寂しくしてると思ってよぉおお!! 来てやったんだろうがよぉおお!!」


 1人で寂しいか……。

 まぁ、以前の俺ならそういう思いも少しはあったかもしれんが……。


 と、紗代子さんに目をやった。


「今は1人じゃないからな」


「ク、クソがぁあああ!! どこでこんな美人と知り合ったか知らねぇけどよぉおお!! 調子に乗んじゃねぇぞぉおお!!」

「そ、そうです! 片井の分際で!! 紗代子さんみたいな人が側にいるなんて許せませんよ」

「ど、どうせ金の力で雇っているんでしょ!?」


 その言い分じゃあ、俺が無理やりに彼女を従わせているみたいじゃないか。


「俺って。紗代子さんを金の力で雇っているのかな?」


「いいえ。私は社長の人柄に惚れ込んでこの仕事に志願したのです。事務員をしているのは私の意志です」


「だそうだけど?」


「「「 ぐぬぬぬぬぬぅ…… 」」」


 緑川は俺の方に体を寄せた。

 耳元で囁く。


「ねぇ。片井。あなたがパーティーに戻ったら、良いことしてあげてもいいわよ?」


「はぁ?」


「ふふふ。私はまだ19歳。あんなババァより若いわよ?」


「興味がない。失せろ」


「な、なんですってぇえ!!」


「失せろと言ったんだ」


「こ、後悔することになるわよ! あたしみたいな美少女に、あんたなんか一生縁がないんだから!!」


「ああ。なら後悔してる方がマシだな」


 と、そこに 衣怜いれが学校から帰って来た。

 

「ただいまーー。あれ? お客さん?」


 彼女は 炎の眼フレイムアイのことは知っている。

 以前に少しだけ、俺の過去を話したことがあったからだ。

 彼女自身で過去の動画を観たらしく、彼らのことは良くは思っていないようだな。

 赤木たちを観てすぐに気がついたようだ。

  衣怜いれの顔色が親の仇を見るかのように変わっている。


 赤木たちにしてみれば 衣怜いれは初めて見るだろうからな。

 本来ならば紹介するのが筋なんだろうが。

 

「げっ! マ、マジかよ!? イ、イレコじゃねぇえか!?」

「そ、そうですよね。伝説のレイヤー、イレコちゃんですよね?」

「な、な、な、な、なんでイレコが片井の事務所にいるのよぉ?」


 そういえば、 衣怜いれは有名なコスプレイヤーだったな。

 ヅイッターのフォロワーは85万人以上。

 プロからのスカウトが来るほどの超人気レイヤーだ。

 

 どうやら、赤木たちは知ってるようだな。

 さて、どうやって紹介するべきか?


 などと思っていると、 衣怜いれは凄まじい形相のまま、俺の腕を抱きしめた。


真王まおくんは私の彼氏なの!!」


 はぁ……。

 やれやれ。

 間違ってはいないが、とんでもない初対面になってしまったな。


 案の定。

 3人の驚愕の叫びが片井ビルにこだました。




「「「 ええええええええええええ!? 」」」




 ああ、うるさい。

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