第28話 赤木と対面

〜〜紗代子視点〜〜


「なぁ、綺麗な姉ちゃんよぉ。俺たちゃあ片井と探索していた仲なんだ。謂わば戦友ってヤツよ。ケハハ。まぁ、そんな仲だからよろしく頼むわ」


 赤木という男。随分と慣れ慣れしいわね。

 片井くんの友人といか言っているけど、本当かしら?


 赤木の後ろから青髪の男が現れた。


「僕は青野原。二ノ宮さん、下のお名前を教えていただけるでしょうか?」


 今度はすかした男。

 

 私の名前なんて必要ないと思うけどね。

 なので、胸の名札には苗字しか表示していないのよ。


「二ノ宮 紗代子です」


「おお! 紗代子さん。素敵なお名前だ。さては、あなたが動画内で出て来る『秘書』ですね」


 秘書?

 それって片井くんの動画に顔出しNGで出演してる 衣怜いれちゃんのことよね。

 勘違いしてるようだけど黙っておこうっと。


「しかし解せません。あなたのような美しい女性が、どうしてこんなビルで事務をしているのですか?」


「こんなビル?」


「だってそうでしょう。片井が社長なんて、くだらないビルだ」


 はぁ?

 どの口が言ってんのよ。

 片井くんは人格者なんだから!

 失礼極まりないわね。

 社長の知人じゃなかったら侮辱罪で訴えるところだわ。


 3人目は緑川  夜摘やつみという女だった。


「ねぇ、受付のおばさん。早く片井を呼んで来てよ」


 おばさんですってぇえええ!?

 私はまだ24歳よ!

 口の聞き方を知らないのかしら?


 3人とも暴言がすぎるわね。

 こんな人たちが、片井くんの仲間だったなんて信じられないわ。


「んで、姉ちゃんよ。片井はどこなんだ?」


「社長は探索に行かれています。もうすぐ帰られるかと」


 私はこの3人を来客室へと案内した。

 もちろん、震える怒りを我慢して。


 受付のデスクに戻って1人考える。


 こんな人間的に終わっている連中が、片井くんの仲間だったの?


炎の眼フレイムアイねぇ……」


 片井くんは昔の探索時代のことを語らない。極貧生活だった、とは聞いていたけどね。


 早速、 炎の眼フレイムアイの配信動画を検索してみることにした。

 チラッと観てみるも、3人が顔出しで戦っているだけで片井くんの姿はない。

 どうやら、彼は裏方に徹しているようだ。


「あれ? この動画だけやけに再生数が高いわね」


 所謂、バズっているというやつだろう。

 それは100万再生を記録していた。


 なによこれぇ。


「無能のメンバーを追放してみた! 【ガチ企画】……」


 ボイスチェンジャーで声をかけてモザイクがかかっているけど、これ明らかに片井くんだわ。名前だって『片井』って呼ばれてるし。

 

 動画内容は惨憺さんたんたるものだった。

 誹謗中傷の嵐。こんなこと、人として許せないわ。


 それなのに、片井くんったらこの人たちを責めることもせず、穏やかに暮らしている。

 彼らの悪行は片井くんの優しさによって許されていたのね。


 まったく、なにが戦友よ。

 友達のとの字も感じられないじゃない。

 私の片井くんをこんな目に合わせるなんてね。

 絶対に許せないわ。


 と、そこに、


「ただいまーー」


 片井くんが帰って来た。





〜〜片井視点〜〜


 意外な来客だった。

 まさか、 炎の眼フレイムアイのメンバーが来てるなんてな。


 思い起こせば、赤木たちには散々にこき使われた毎日だった。

 もう2度と会わないと思っていたが、まさか、向こうからやって来るとは。

 

 客室に行ってみる。

 赤木たちは来客用のソファーにドカッと座り込んでいた。


「おお! 片井ーー。久しぶりじゃねぇか! 元気にしてたかぁ?」


「まぁな」


「ははは! つれない奴だなぁ。探索者として上手くやってんのによぉ。連絡一つよこさねぇなんてな」


「はぁ? 俺がおまえたちに連絡を取る義理があるのか?」


「ははは! おいおい。なに冷たいこと言ってんだよぉお。俺たちは一緒に探索した仲じゃねぇかよぉお」


 いやいや。

 

「ゴミクズ無能と罵られ、配信視聴料のお溢れを吸う蛭野郎と罵倒されていたがな」


「ギクゥウウウ! は、ははは。そ、そんなこともあったっけかなぁ」


「俺は無能なんだろ? そんな人間と関係を持つのはマイナスなんじゃないか?」


「は、ははは……。そ、そんなことねぇっての……。ははは」


 青野原が眉を上げる。


「ま、まぁ、そんな無能でも努力は認めてもいいと思うのですよ」


 ほぉ。


「それはありがたいな」


「まさか、こんな自社ビルを持っているなんて驚きです」


「そりゃどうも」


「やはり噂は本当のようだ」


「噂?」


「あなたがネットで話題の鉄壁の探索者だということですよ」


 ああ、そんなことか。

 なるほど、大方、その噂を聞きつけてここに来たんだな。


「どうなのよ片井! はっきりしなさいよ! あんたが鉄壁なんでしょ!?」


「それって答える義務あるのか?」


「と、当然でしょ! あんたはあたしたちのパーティーで甘い汁を吸って来たんだから!」

「わーー! こら 夜摘やつみ! 甘い汁とか言ってんじゃねぇぜ!!」

「そうですよ。 夜摘やつみちゃん! そこには触れちゃダメです!!」


 なんだなんだ?

 まぁいいか。


「俺はあんたたちにとって無能の蛭野郎なんだろ? もうそれでいいからさ。そんな男になんの用事で来たんだよ?」


「は、ははは。ま、まぁ、昔のことは水に流してだな」


「はぁ? 流すって何をだよ?」


「は、はははーー! ま、まぁ、いいじゃねぇか。んでよ。やっぱりおまえがそうなんだろ? 鉄壁の探索者ってのはよ?」


「だから、答える義務あるのか、それ?」


「ははは。だよなーー」


  夜摘やつみは声を荒げた。


「ちょ、片井! あんた何様よ!? あたしたちが聞いてんだから、素直に答えなさいよね!!」


「いや。おまえらこそ何様だよ? ここは俺の事務所なんだぞ?」


「なんですってぇえええええ!!」

「うわーー!  夜摘やつみ落ち着けぇええ!!」

「そうです。 夜摘やつみちゃん落ち着いてください!」


 やれやれ。

 なんだかよくわからんなぁ。


「とにかく要件はなんだ? パーティーから俺を追い出したのはおまえたちなんだぞ? そんな奴らが俺になんの用事なんだよ?」


「あは、あははは……。追い出したなんてそんな……。人聞き悪いぜ」


「いいから話せよ。俺みたいな無能の人間と話しをするなんて、おまえたちにとってプラスはないだろう?」


「う、うぐぅ……。じゃ、じゃあ端的に話すぜ」


 赤木は真剣な眼差しを見せた。



「片井。やり直さないか?」



 …………。










「はぁ?」










 こりゃあ、空いた口が塞がらないな。

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