第23話 大家さん


 大家ははしゃいでいた。


「ヒャッハーー! 巣鴨で買った高級バッグだよぉーーーー!!」


 そして、普段食べることのない高級な大福餅をもしゃもしゃと食べる。

 1個800円もする餡子がたっぷり入った贅沢品だ。


「ククク。あのバカは本当に100万円振り込みやがったよ。おかげでブランド物をたくさん買えたわ。ククク。それにこの丸鶴屋の高級大福! モッシャモッシャ……。美味しいねぇえ。ほっぺた落ちるわ。グフフ」


 部屋の中は高級玉露のいい匂いが充満していた。

 1袋6千円の最高級品である。


「グフフ。お茶だって贅沢してやるわ。茶っ葉をふんだんに入れてねぇ。ヒヒヒ」


 大家はそのお茶をズズーーっと飲んだ。


「うみゃーーーーーーーーい!」


 大歓喜である。


「それにしても、あの小僧が出て行ったんじゃマンション業は潮時かねぇ。入居者は碌な奴が来ないし、こんなマンションぶっ潰してさら地にして売ってやろうかしらね。ケケケ」


 どんな風に土地を高く売ろうか?

 そんなことを考えている時だった。

 

 そこにやって来たのが西園寺不動産の社長、西園寺 磨魅絵まみえである。


「おい。婆さん。このマンションについて色々と調べさせてもらったぞ」


「あ、貴女は!? さ、西園寺不動産の社長! どうしてこんなマンションに?」


「片井さんに世話になったのさ」


「あの小僧に!? あ、いや、片井さんに? ははは。で、でも片井さんはもう引越ししましたよ」


「もちろん知っているさ。私が所有していたビルを彼に贈与したんだからな」


「な、なんですってぇえ!?」

(じゃ、じゃあ、あの小僧が言っていたのは嘘じゃなかったのか……)


「さて、話を戻そうか。婆さんが片井さんに請求した、100万円のハウスクリーニング代はちと高すぎると思うがな? どう思う?」


「あは……。あはは。マ、マンションの補修工事やらなんやらでねぇ。入り用だったんですよぉ」


「このマンションが建築されて30年。補修工事の記録は一切ないが?」


「はわわわわわ!」


「この辺りのハウスクリーニング代の相場は2万円前後だろう。それを100万円とはよくも吹っ掛けたもんだな。こういうのなんていうか知っているか? 水増し請求というんだ。要するに詐欺ってヤツだな。れっきとした犯罪だぞ」


「は、犯罪!?」


「それにこのマンション。登記上の矛盾点が多いな。役所に提出している情報と違いすぎる。いわゆる違法建築だ。大家の税金の申告もおかしな点が多くあったしな」


「あわわわわわ!」


「他にも調べれば調べるほど違法なことが多いな。控えめに言っても実刑は確実か。刑務所に2年……。いや、3年は入るだろうな。老体には応えるだろうよ。冬は冷えるぞ」


 大家は号泣した。

 西園寺の脚にすがりつく。


「ぎゃはぁああ! ど、どうかご勘弁くださいーー! 警察に言うのだけはぁーー! お金は通常のハウスクリーニング代2万円だけで結構ですのでぇええ!」


「2万円……。なるほど、正当な請求額というわけか。ならば、こちらも動いているわけだからな。弁護士費用、交通費、人件費諸々、婆さんには全額請求させてもらおうかな」


「ひぃいいいいい! 申し訳ありません! 無料にしますぅううう! どうかお許しくださいーーーー!」


「ああ、それとな。婆さんのことは黙っておいてやるから、このマンションは今のままを保つように努力してくれ。片井さんが懐かしむ大切な場所だからな」


「ええ!? う、売っちゃダメなんですか?」


「当然だ。そんなことをしてみろ。あんたの隠している情報は全て警察を通して開示することになるな」


「ヒィーー! ぜ、絶対に売りません!!」


「あと、壊すのもダメだからな。今のままを保つんだ。いいな?」


「は、はい〜〜」


「マンションを壊したら、わかっているな?」


「は、はひぃいいいい」


 こうして、片井が住んだ思い出のマンションは人知れず守られることになった。

 また、その日のうちに片井の口座には100万円が返金されたのだった。





〜〜片井視点〜〜


 不思議なこともあるもんだ。

 大家さんに振り込んだ100万円が返金されていたのだ。

 当然、問い合わせをしてみたんだけど、


『ははは……。じ、実は手違いだったんです。お金は無料で結構ですよぉ。トホホ』


 とのことだった。

 あの婆さん。強欲そうに見えて、案外優しい性格だったのかもしれないな。

 最後はちょっと悲しそうだったけど、一人暮らしが寂しいのかもしれないな。

 時々は顔を見せてやろうか。


 こうして、俺は引っ越しを無事に完了した。


 

 

 片井ビルの3階以上は住居スペースである。

 空き部屋の使い道はまだ未定だ。


 5階の全居室は改築して俺だけの居住スペースにした。

 10部屋あったのを繋げたからな。随分と広い住み家となったぞ。


「ま、 真王まおくん。私も住んじゃダメかな?」


「あーー。それは……」


「ダ、ダメ?」


「ダメというか……」


 それ用に全部用意したんだよな。

 キッチンとか部屋とかさ。

 ベッドはダブルだしな。

 10部屋中、1室は 衣怜いれの部屋なんだ。


「前のマンションは狭かったからさ。ここは広いから 衣怜いれの自由につかってくれていいよ。そ、その……。す、住みたいのなら、住んでくれていいしな」


「ありがとう!」


 彼女は俺に抱きついた。


 一応、彼女はまだ高校生なんだよな。

 未成年の女の子が、成人男子と同棲ってのは問題があるだろう。


「一応、 衣怜いれの部屋は用意してあるからさ。荷物はここに置いてくれていいしな。登記上はこの部屋主が君の名義でいいから」


 これで彼女は俺のビルの住人というわけだ。

 いわば、1人暮らしだな。

 まぁ、彼女の部屋の扉を開けたら俺の住居スペースだけどな。

 たとえ、俺のダブルのベッドで彼女と一緒に夜を過ごそうとも、同棲しているわけではないのだ。

 うん。問題ない。


 そして、1階の入り口には小さな看板が掲げられた。


『片井ダンジョン探索事務所』


 ふむ。

 俺が社長か。

 悪くない。


 主に税金の処理や、その他もろもろの事務手続き。

 コウモリカメラの修理や、武器、防具の手入れもするだろう。

 探索事業に関する全てのことをやっていく事務所だ。


 特段、目立って仕事をするつもりはないんだ。

 だから、看板は小さい。

 外注からの依頼もこの事務所を通してやっていこうと思うが、仕事は細やかにやれたらいい。無理をせずとも配信業が調子がいいのだからな。


 配信者はアイドル業みたいなもんだし、探索者って冒険者みたいな存在だよな。


 つまりここは、アイドル事務所と冒険者ギルドが合体した場所なんだと思う。

 

 さぁて、次はどんな探索をしようかな?

 楽しみだ。


────

次回は赤木回です!

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