第19話 無駄という意味

  寺開じあくは剣を振り上げ、俺に向かって来た。


 うーーむ。

 えらく自信のある突撃だな。

 前回は俺の魔法壁にやられたのにさ。


 それに、持っているあの剣は見たことのない代物だぞ。

 おそらくレアアイテムだろう。

 奴の自信は妙に気になるな。

 ちょっと距離を取るか。


ブゥウウウン!!


 奴の攻撃が空を斬る。


「おらぁあ、どうしたぁああ!? ご自慢の魔法壁の防御はよぉおおお!!」


 やはり、随分と自信があるな。


「片井ぃいい! 地獄に堕ちろぉおおお!! ヘルスラッシュッ!!」


攻撃アタック 防御ディフェンス


 その瞬間。

  寺開じあくは勝利を確信したように笑った。


「ギャハハ!! もらったぁああああ!!」


ズバァアアアアアッ!!


 魔法壁は真っ二つに斬られる。


「きゃああ!!  真王まおくん!!」


 俺は距離を取っていた。


「ああ、大丈夫。斬られてないから」


 魔法壁を斬るなんてな。

 やっぱりあの剣が特殊そうだな。


「ちぃいいい!! 運のいい奴!」


「随分といい武器を持っているじゃないか」


「グフフフ。これは斬魔剣。魔法を斬ることのできるレアアイテムなのさぁあ!!」


 なるほどな。

 それがこいつの自信ってわけか。


真王まおくん! 私も手伝うわ!!」


「いや。丁度いいよ。ボス戦前のウォーミングアップにはさ」


 あんまり快適すぎても楽しくないしな。

 やっぱり探索はワクワクしないとな。


「グフフフ。片井  真王まお。調子の良い発言はそこまでだぞ。貴様のことは調べさせてもらった」


「へぇ。気持ち悪い趣味だな」


「趣味なんかじゃねぇ! 貴様を地獄に堕とすためになぁ。ククク。片井  真王まお。万年、D級の探索者。使える魔法は防御魔法のみ。つまり、攻撃魔法はおろか、攻撃スキルもない。無能な探索者だぁあああ!!」


 ふむ。

 まぁ、有能ではないかもしれんな。


「魔法って才能だろ? ダンジョンに入ったら開花する仕組み。不思議なことに俺が開花したのは防御魔法だけだったんだよな」


「ガハハ! だから無能なんだよぉ! 俺様は攻撃魔法も、スキルだって使えるんだ。貴様とは格が違う」


「そかそか。だったらすごいじゃないか。もう俺なんかに拘らずに自分の探索に専念しろよ」


「そうはいかん。貴様のようなカスに舐められて黙っていられないんだよ! 俺は 寺開じあく財団の当主なんだからなぁああ!!」


 へぇ……。

  寺開じあく財団といえば、なんにでも投資する金持ちグループだな。

 だから、こいつは金を持っているのか。


 しかし、


「そんな財団のトップが人殺しなんてするなよ。部下が悲しむぞ」


「ブハハ! バーーカ。俺はこうやってのし上がってきたんだよぉお」


 こうやって?


「グフフ。教えてやろう。探索が発展した今の現代社会において、完璧な犯罪が存在することをなぁああ!!」


「なんの話だ?」


「殺人だよ。都合の悪い人間はダンジョンの中で殺す。世間に報道されるのはモンスターにやられたことになるのさ。政治家、起業家。邪魔な奴はダンジョンの中に引き摺り込んで殺すんだよぉお!」


 おいおい。

 とんでもない悪党じゃないか。


「そこにいる 衣怜いれも知らない組織の秘密さ。グハハ。どうして教えたと思うね?」


「ふむ。俺たちを始末するからだろ」


「グハハ! そのとおり! 俺の秘密を知った奴は生かしておかんのだ。グフフ」


 いや、そっちが勝手に漏らしたんだがな。


「おまえは 衣怜いれの仲間だったからさ。警察には被害届を出さなかったがな。これはもうそんなレベルじゃないな。今の話はコウモリに記録している。おまえは法の裁きを受けた方が良さそうだ」


「ククク。だから、それがおまえが生きて帰れたらの話だろうがぁああ! 貴様は俺に斬られて死んじまうんだよぉおお!! 死ねぇええええ!!」


攻撃アタック 防御ディフェンス


「無駄だぁあああ!! ヘルスラッシュッ!!」


ズバァアアアアアア!!


 ふむ。

 ゼリーを切るみたいにすっぱりと斬るな。

 

「ギャハハハ! 無駄無駄ぁああ!! 貴様の魔法壁など、この斬魔剣が放つヘルスラッシュには効かんのだぁあああ!!」


「無駄、という言葉の意味を知っているか?」


「はぁああ〜〜?」


「多用してるからさ。意味を確認してみたんだ。誤用は怖いだろ?」


「ククク。無駄とは、役に立たないということ、なんの効果も効力も無いということ。つまり、おまえの魔法壁のことだぁあああああ!!」


 俺の防御魔法が効果がないか……。


「なるほど。じゃあ試してみよう」


「ギャハハハ! なにを今更! 死ねぇええ!! ヘルスラッシュッ!!」


攻撃アタック 防御ディフェンス3倍」


 俺は魔力量をコントロールして魔法壁を強化できるんだ。

 倍化すればするほど、強力な防御力を発揮する。


ズバァアアアアアアア!!


「無駄無駄ぁああ!! プリンみたいに斬れるぞぉおお!!」


 では、


攻撃アタック 防御ディフェンス5倍」


ズバァアア!!


「グハハ! 観念しろぉおお!! ヘルスラーーーーッシュッ!!」


 ふむ。

 これならどうだ?


攻撃アタック 防御ディフェンス10倍」


ガッ!!


 おや?


「斬撃が止まったな?」


「グヌヌヌ……。こ、こんな壁ぇえええ!」


ギギギギギギ!

ズバーーーーン!!


「グハハ! どうだぁあああ!! 斬ってやったぞぉおお!!」


 よし。


攻撃アタック 防御ディフェンス20倍」


「へ?」


「さぁ。斬ってみろ」


「こ、こ、この! この! クソ壁がぁあああ!! ヘルスラッシュ! ヘルスラッシュ!!」


ガンガンガン!


「ガハハ! 見ろ! す、少しずつだがひびが入っているぞぉおおお!!」


 うむ。

 じゃあ、


攻撃アタック 防御ディフェンス30倍」


「な!?」


カキン!!


 それは剣が折れる音だった。

 斬魔剣の剣身はクルクルと回って飛んでいった。


「あわわわわわわ……。ざ、斬魔剣がぁああ……」


「えーーと。たしか、役に立たない。効果がない、というのが『無駄』という意味だったな。この場合、その剣が『無駄』ということになるが?」


「あぐぐぐぐ」


 どうやら混乱しているようだ。

 彼の頭でもわかりやすいように説明してやろうか。


「確かに、俺は防御魔法しか使えない。だから、自分で工夫してな。毎日そればかり磨いていたんだ。パーティーメンバーを助けるためにさ。仲間が傷つかないようにな。毎日、コツコツと。防御魔法だけを、一心不乱にな。そしたらな。魔法壁の強化が随分とできるようになったんだ」


 教えてやろうか。

 公式には発表されていない。

 俺の魔法壁の力を。



「今じゃ、100倍まで強化できるようになったんだ。斬れるかな? 俺の壁を?」

 


  寺開じあくは顎が外れてパッカリと開いていた。

 絶望したかのようにガクガクと震える。


「ぐ、ぐぬぅうう!! お、女だ!  衣怜いれを捕まえろ!! 人質だぁあああ!!  衣怜いれを狙えぇええええ!!」


  寺開じあくは部下に命令した。

 9人の部下たちが 衣怜いれに襲いかかる。


「フヒャヒャヒャヒャーー!! 多勢に無勢!! 油断したな片井ぃいい!! オツムの出来が貴様とは違うんだよおおお! このビチ糞がぁあああ!!  衣怜いれを人質にすればおまえはお終いだぁああ!! 俺に手を出してみろぉ!  衣怜いれの命はないぞぉお!! 貴様の目の前で犯してやるぅうう!! 俺たち全員で 衣怜いれを犯しまくってやるぜぇええええ!!」


 やれやれ。

 そういう戯言は捕まえてから言えっての。


  衣怜いれは大剣を構えた。


「ブヒャヒャヒャーー!! この女は収納スキルしか使えん無能だぁ!! 貴様の攻撃なんて無駄なんだよぉおおお!!」


 果たしてそうかな?


 彼女は大剣をぶん回した。


「たぁああああああッ!!」



ブゥウウウウウウウウウンッ!!



 それは凄まじい一振りだった。

 9人の屈強な探索者は、そのたった一振りの風圧だけで吹っ飛んだ。


「「「 うわぁあああッ!! 」」」


「へ?」


 吹っ飛ばされた奴らは、壁に打ち付けられて気を失った。


「バカな! ど、どうして 衣怜いれが!? あんなに強い一撃を放てるんだ!?」


「彼女は努力したのさ。立派な探索者になろうとしてな」


「なにぃいいいいい!?」


 毎日、コツコツと。

 大剣を振り続けた。

 その成果が出ただけにすぎん。


「残ったのはおまえだけのようだな」


  寺開じあくは腰を抜かす。


「あわわわわわ……」


 確認しておこう。

 言葉は正しく使うことが大事だ。


 彼の攻撃は一切通らず。

 武器は破壊され、今は地を這って逃亡の姿勢か。

 うむ。



寺開じあくよ。『無駄』なのはおまえの方だったな」




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