第18話 片井と寺開

 俺たちは西園寺邸の敷地内に出現したダンジョンに潜っていた。


 その地下20階。


 そろそろ、ボスルームに到達しても良さそうなもんだがな。


「たぁああああ!!」


  衣怜いれが大剣でモンスターを斬る。


「ふぅ。このダンジョンはプラント系が多いわね」


 確かにな。

 植物の皮膚をしたプラント系のモンスターばかりだ。


 彼女はモンスターが残した魔晶石を拾った。


「魔晶石もプラント系だから、素材としては高く売れるかも」


 ふむ。

 プラント系は希少品だからな。

 レアアイテムも結構ゲットできたし、意外と悪くないダンジョンかもしれない。

 そう考えると宝の山か。

 消滅させるのは惜しいな。


「食料はあと何日分あるんだ?」


「1週間分は用意しておいたから3日はいけると思う」


 それなら、あと1日くらいはゆっくりと探索しても良さそうだがな。


「あ、 真王まおくん。下に降りる階段だよ。どうしようか?」


 うーーん。

 この階で探索してレアアイテムに高価魔晶石をゲットするのも悪くないぞ。

 悩ましいな。しかし、

 

「よし。降りよう」


 探索もいいが、依頼を優先するべきだよな。

 ダンジョンの駆除は西園寺社長の強い要望だからな。

 彼女の不安を取り除いてやるのが探索者として優先すべき事案だろう。


 階段を降りて、しばらく進むと、大きな扉があった。


 ボスルームだ。


 この中のボスを倒せばこのダンジョンは消える。

 晴れて依頼の完了だ。


「よし。入ろう」


 と、その時である。


「待て」


 背後から男の声。

 

 他の探索者もいたのか。

 コウモリカメラはオフにしよう。

 配信は中止だ。

 他の探索者の顔が映ると厄介なんだ。そいつから俺たちの身元がバレる可能性があるからな。

 

 加えて、俺たちの顔が撮影されるのはまずい。

 相手が探索者ってことは、相手側がコウモリを作動させている可能性があるんだ。

 俺は急いでフードで顔を隠す。

  衣怜いれもそれを察知してフードを深々と被った。


 よし。これで大丈夫。


「ククク。どうした!? 急に顔なんか隠しやがって」


「コウモリで撮影してるだろ? 顔が映るのは面倒だからな」


「はははは! みっともない顔だからなぁああ!! カメラに映るのは嫌かぁああ!! ギャハハハ!!」


 なんだこいつ?


「おまえ誰だよ?」


「ククク。久しぶりだな片井。会いたかったぜ。この俺の顔。忘れたわけではないだろう?」


 それは10人以上のパーティーだった。

 屈強な探索者ばかりを集めている。


 中心にいる男はリーダーだろう。

 随分と高価な鎧を身に纏っている。

 かなり金持ちなんだろうな。


 男はニヤニヤと俺たちを見て笑っていた。


 えーーと。


「誰だっけ?」


寺開じあくだ!  寺開じあく 晴生!!」


「ああ。部下にセクハラを働いたどうしようもないクズ探索者の 寺開じあくか」


「バカにするなぁあああああ!!」


 ディスる要素しかないんだよな。

 そんなことより、


「おまえもこのダンジョンに潜ってるなんて意外だったな。西園寺社長の依頼か?」


「ククク。まぁな! あの女が、どうしても、と頼み込んでくるのでなぁ。仕方なしに依頼を受けたのさ」


 社長はそんな人とは思えんがな。

 おおよそ、金の臭いに目が眩んだ 寺開じあくが西園寺社長に頼み込んでダンジョンに入らせてもらったんだろう。

 彼女にしてみても、俺たちに死なれては困るからな。

 俺と 衣怜いれのために 寺開じあくをダンジョンに入れたんだろう。


 そうなると、ダンジョン攻略は早い者勝ちか。

 だったら、


「見てのとおり、ここはボスルーム前だ。俺たちが先に見つけたからさ。探索者のマナーとしては先に入る権利があるよな?」


「おおっと。そうはいかんぞ。ルールは強者が作るものなんだ」


 やれやれ。

 変なルールを提示してきたなぁ。


「残念ながらおまえらに入る権利はない。ボスを倒すのはこの 寺開じあくのパーティーなのさ」


 横暴だなぁ。

 そんなルールがまかり通るはずはない。


「横の女……。もしかして 衣怜いれか?」


 彼女はフードで顔を隠す。


「隠しても無駄だぞ。おまえ 衣怜いれだろ! なんで片井と探索してるんだよ?」


「か、片井さんとはパーティーを組んでいるんです」


「にゃにぃいいい!? お、俺という男がいながらぁああ!!」


「あ、あなたとは何も関係がありません!」


「ふざけるなぁああああ!!」


 ふざけてるのはおまえの方だよ。


「彼女は自分の意思で探索者をやっているんだ。おまえにどうこう言われる筋合いはないさ」


「このビチ糞片井は黙っていろぉおお!!」


 いやいや。

 黙る理由はないだろう。


「そもそも。おまえがセクハラやパワハラで彼女を困らせていたのが問題なんだ。加えて、俺に対する暴行だ。全部動画の証拠が残っているんだぞ?」


「ぐぬぬぬぅ。貴様、それで勝った気かぁ?」


「そういうんじゃないがな。警察に被害届けを出していないだけ感謝して欲しいだけさ」


「ククク。そのデータはあのコウモリに入っているのかな?」


「ああ。それがどうかしたのか?」


「カハハハ! バカめ! それならば簡単なこと。あのコウモリを破壊すれば証拠は消えるということだぁ!」


 それはそうだがなぁ。


「おまえが俺に勝てるといいたいのか? この前はコテンパンにやられたのにさ」


「や、やかましい!! 今回は違うのさ。おまえの最後だよ片井ぃいい!」


 そう言って剣を抜く。


 やれやれ。

 またこのパターンか。

 なら、動画の記録だけは撮っておくか。

 こういう奴は証拠を残しておかないと後が厄介なんだ。


「先に言っておくが、コウモリを起動したからな。おまえの犯罪行為は撮影済みだぞ?」


「ギャハハハ! 配信をしていない時点で貴様の負けは確定なんだよ。ククク」


 えらく配信にこだわるんだな。


「おまえも配信はしてないじゃないか? コウモリの画面が配信状態じゃないぞ」


「ククク。今は動画撮影だけさ。俺様の勇姿を映すな。編集して俺様の大活躍をアップするんだ」


「なるほど。小細工が好きなおまえらしいよ」


「ふん! デカい口を叩けるのは今のうちだぜ。この現状はおまえにとって絶望的なんだ。なにせ、俺たちの戦いを知っているのはここにいる人間だけなのだからな!」


 うーーむ。

 意味不明だな。

 

「俺に不利な要素ってあるのか?」


「ククク。バカな奴。まだ気づかないのか? 貴様はこのダンジョンで死ぬことになるんだよ。俺に殺されてなぁ。もちろん、名目上はモンスターに殺されたことになるんだがなぁ。ククク」


「ほぉ。それはそれは。ドラマチックな展開だな」


「ククク。余裕振っても無駄だぜ。今は疲れている頃だろう」


 はい?


「やっとの思いで辿り着いたボスルーム。そこにボスより強い強敵が現れたんだからなぁ」


 えーーと。


「疲れ切った体に強敵の強襲だ。今はビビりまくって恐怖で震えてるんだろうぜ。ギャハハハ!」


 いや、えーーと。


「疲れる要素は特になかったけどな。なぁ 衣怜いれ?」

「うん。楽しい探索だったよね 真王まおくん」


「ま、 真王まおくん……だと? き、貴様ら……。妙に親しいな?」


 それは、まぁそうだよな。


真王まおくんと私は付き合っているんです」


「なんだとぉおおお!?  衣怜いれぇえええ!! 俺という存在がいながぁらああああ!! この浮気女がぁあああ!!」


「誤解されるようなことは言わないでください。あなたとは友達という垣根さえ超えてませんから!」


「な、なにぃいい!? だったら俺との関係はなんだったのだ?」


「元仕事仲間……。いや、仲間というのは嫌だな……。知人で」


 プクク。

 これは笑わずにはいられないな。


寺開じあく。良かったな。他人と言われなくて」


「ふざけるな。この糞どもがぁああ!! この世から消し去ってくれるわぁああ!!」


「おまえにそんなことはできないさ」


「ハハハ! 強がったって無駄無駄ぁ。2人っきりの探索でヒィヒィ言ってんだろうがぁああ!! 俺たちは10人パーティーでも結構、大変だったんだからなぁああ!!」


 いや……。

 キャンプでビール飲んだりして、結構のんびりやらせてもらったけどな。

 なんなら、もう少し探索を長引かせても良かったんだ。

 西園寺社長の依頼の手前、最短ルートを選択しただけにすぎん。

 まぁ、あんまりこういうことをいうのは酷なのかもな。


「ギャハハハ! 片井よぉお! 謝ったって無駄だぞ。俺を敵に回したことを激しく後悔しろぉ! ぶっ殺してやるぜ片井ぃいいいい!!」


 やれやれ。

 だから、俺が謝る要素はゼロなんだってば。


  寺開じあくは剣を振り上げた。


「片井ぃいい! 死ねぇえええ!!」

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