第17話 邪悪な思惑と楽しい探索


〜〜 寺開じあく視点〜〜



「ハハハ! 西園寺社長! ダンジョンの駆除は、この 寺開じあく 晴生にお任せください!!」


 俺たちは西園寺不動産の社長邸宅に来ていた。

 敷地内にできたダンジョン駆除。その依頼を受けるべく交渉をしに来たのだ。


「いや、しかしだなぁ……」


「安心してください。今回のダンジョン攻略においてメンバーを増員しました! 全て、A級の探索者ですよ」


「それはありがたいが……」


「なにを躊躇しているのです! この 寺開じあくにお任せくだされば全て解決するのです!! この依頼。ぜひ、お願いしたい!!」


「うーーむ」


 ええい。

 頭を下げまくってやる。


「ぜひ! ぜひぃいいい!!」


「そこまで言うのなら……」


 ククク。やった!

 いいぞ。最高の流れじゃないか。

 この女と仲良くできれば西園寺不動産にコネが作れる。

 そうなれば俺のビジネスが更に拡大するだろう。

 それに社長は美人だしな。手籠にするのも悪くない。

 隙があればあのデカイ胸を俺の手で、グフフフゥ。


「既に他の探索者に依頼はしているんだがな。それでもいいのなら頼もうと思う」


「ほぉ。私の他に誰がダンジョンに入っているのですか?」


「ああ。片井さんというのだがな」


 か、片井ぃ?


「D級の探索者なんだが、実績がすごくてね。いくつものA級ダンジョンを攻略している人なんだよ」


 ま、間違いない。あの片井だ。

 低い等級の癖に妙に強い。あの男しかいない。


「若い女の子と2人だけのパーティーでね。探索者に精通している 寺開じあくさんなら知っているかな?」


「は、はぁ。まぁ……」


 ぐぬぅうう。

 片井の癖に若い女となんて生意気な。


「2人には悪いが、不安はあるんだ。しかし、条件が良くてね。探索費用を全額免除してくれるというんだよ。攻略ができなくてもこちらはノーリスクというわけさ」


「なるほど」


「しかし、死傷者が出るのは避けたいからな。 寺開じあくさんにも入ってもらおうと思ったのさ」


「はぁ」


 くそ。

 よりにもよって、あの片井と同じダンジョンか。


寺開じあくさんが入ってくれるのなら更にトラブルは減るかもしれんな」


 うん?

 さては社長。まだ、片井の実力に疑問があるんだな。

 よぉし、これを利用してやるぞ。


「西園寺社長ともあろうお方が失敗しましたね」


「失敗だと?」


「ええ。まさか片井に頼るとはね」


「どういう意味だ?」


「いえね。あの片井という男は、探索者界隈でも詐欺まがいのことをしている有名な悪党なんですよ」


「なに!? ……そうは見えなかったがなぁ」


「気さくな、気の良さそうな雰囲気を出しているでしょう? それが奴のやり口なんですよ」


 プフゥウウウ!

 奴には恨みがあるからな。

 治療した鼻がまだ疼く。

 この機会に好き放題言ってやるぜ。

 

「しかし、私に実害は出ないが?」


「それが奴のやり方なんですよ! 社長とコネクションを作ってですね……」


 えーーと、理由はなんにしようかな?

 なんでもいいんだが、

 ……そうだ!


「あなたの体が目的なんです!!」


「なにぃいい!?」


「探索者の分際でね。美人には目がない」


「わ、私の体が……」


 ククク。

 良い流れだぞ。


「悪くないな……」


「え?」


「……あ、いや。なんでもない」


「とにかくですね。あの片井という男は口八丁手八丁で、美人な女を口説きまくっているんですよ! 奴に泣かされた女は数知れません!」


「そ、そうか……。それは困りものだな」


「大方、私の実績を見越しての探索なのでしょう」


「どういう意味だ?」


「考えて見てください。凶悪なダンジョンにたった2人で挑むなんて無謀だとは思いませんか?」


「……確かに」


「私のような強い探索者が入って来るのを待っているのですよ。私が攻略すれば、そのお溢れを貰えばいい。奴がするのは簡単なこと。適当にバトルでもして動画を撮影する。証拠を作って、私が攻略したのに乗っかるつもりなんですよ」


「うーーむ。そんな手があったのか」


「どうせ。奴が自称する実績の数々も丁稚あげでしょう」


 ギャハハハ!

 どうだ片井ざまぁみろ!

 貴様の評判を落としてやったぜ!

 俺様に楯突いたことを後悔させてやる。


「でも、安心してください。社長を片井の毒牙から守るのも私の役目ですから!」


「う、うむ」


「大船に乗っていてください。厄介なダンジョンも、すけこましの片井も、私が全て駆除してさしあげましょう! この 寺開じあく 晴生に全てお任せください!!」


 それにね。


「社長にはお見せできませんが。私は特殊なスキルが使えるのです。これはダンジョンの中でだけ使うことができます。このスキルがあれば、こんなダンジョンは余裕なのですよ。ふふふ」


「ほぉ。すごい自信だな」


 ふは!

 決まったぞ。

 これで俺の印象は爆上がり。

 あとは、ダンジョンを攻略して片井を地獄に落とすだけだ。


 グフフ。天才すぎて怖いくらいだぜ。

 ここまでの手腕は、並の探索者では持ち合わせていないだろう。


 ダンジョン攻略の報酬。片井の失墜。そして、美人社長を手籠にする。

 ヌハハ! 完璧! 言うことなし!!

 流石は俺だ。


 この攻略にかこつけて、片井を地獄に落としてやるぞ。


 私のスキルと……。

 この、レアアイテム、斬魔剣を使ってなぁ。


 グフフ。

 こんな日のために大金を叩いて買っておいたのだよぉ。


 待っていろ片井。

 貴様を地獄に送ってやるぞ!

 2度とダンジョンに潜れない体にしてやるからな。


 ここは、かなり強敵の潜むダンジョンと見たぜ。

 ならば、2人は探索で疲れ切っているはずだ。

 ダンジョンモンスターの討伐でヒィヒィ言っているに違いない。

 ククク。そこに俺様の登場だ。

 弱った体に追い打ちをかけてやる。


 完璧な作戦だぁあああ!!


 ギャハハハハハーー!!





〜〜片井視点〜〜


 俺たちは西園寺邸の敷地内にできたダンジョンに潜っていた。


 ここは生成されたばかりなので地図情報がない。

 中は迷路のようになっていて広かった。


「たぁああああ!!」


  衣怜いれの大剣がモンスターを斬る。

 彼女の剣技は随分と成長している。 

 B級の敵が群れを成しているけれど、 衣怜いれなら問題なさそうだな。


 俺はA級のモンスターを担当しようか。


攻撃アタック 防御ディフェンス


 俺の眼前には、以前倒したことのあるフレイムブリザードドラゴンが2体いた。

 これは結構大変だな。

 この前は 反射防御ミラーディフェンスを使ったんだっけ。

 相手の炎の攻撃を反射させて倒したんだ。

 

「鉄壁さん! ちょっと待っててね! こっちを片付けたらそっちに行くわ!」


「ああ、大丈夫。気にしないでくれ」


 俺も探索には慣れて来たんだよな。

 以前は大きくて押し潰せなかった敵も。


「よいっしょっと」




ベチャァアアアッ!




「よし」


 フレイムブリザードドラゴン2体を攻撃アタック 防御ディフェンスで撃破。


「え!? 鉄壁さん1人で倒しちゃったの……。す、すごい……」 

 

  衣怜いれも無事に殲滅完了か。

 2人とも成長してるな。

 この調子なら 衣怜いれだってA級の敵が余裕になりそうだぞ。

 

 時計を見ると夜の7時を回っていた。

 ダンジョンって空がないから朝夜がわからなくなるんだよな。


「今日はこの辺でテントを張ろうか」


「うん」


 周囲を魔法壁で囲んでっと。

 打撃と魔法の壁。2種類の魔法壁を重ねて張っておく。

 これでモンスターの侵入を完璧に防げる。


 食事の調理は 衣怜いれがしてくれた。

 彼女の料理は何を食っても美味いんだ。


「えへへ。2人きりで探索ってキャンプみたいだよね」


「ははは。確かにな」


 最近ハマっているのは棒に刺したウインナー。

 焚き火で焼くとめちゃくちゃ美味いんだよな。

 中から肉の油がジュワーーって出てきてさ。

 それがカリカリに焼けた表面と合わさってね。

 中はプリップリ。でも噛むと、


「カリッ!」


 んで、中から肉汁がジュワーーって出てくる。

 表面が少し焦げるくらいが丁度よくてさ。

 コゲの苦味と肉汁とよく合うんだ。

 ああ……。


「ビール欲しいな」


「あはは。そう思って買っておいたよ」


「マジか!」


  衣怜いれの収納スキルは温度を保つようになっている。

 冷たいビールを入れるとそのままの温度で運搬できるんだ。


「はい。どうぞ」


「うほ! 冷たい! 缶ビールがダンジョンで飲めるとはな!」


「じゃあ、私は未成年だからコーラ飲むね」


 缶の表面についた水滴がもう堪らんよな。


プシュゥ!


 2人でプルトップを上げた。


 では、


「「 お疲れ様ーー 」」


 カン! と乾杯。


ゴクゴクゴク。


「プハーーーー!! うまぁあああい!!」


 ウインナーの脂をビールの苦味が包み込む。

 探索の疲れを癒すように喉からジュワワワワーーっと。

 この感覚は形容し難いな。この喉越し。たまらん。


「ああ、最高だな」


「うん」


 こんなに楽しい探索でいいのだろうか?

 特に大きな問題があるわけもなく、のんびりとできている。

 注意すべきはボスバトルくらいかな?

 それまでは、このダンジョン探索を楽しむとしようか。


 腹が満たされると、後は寝るだけだが……。


 ふと、ランプの灯りに照らされた彼女が気になる。


 白い肌にオレンジの灯りが写って妙に色っぽい。


「あーー。なんていうか……。探索者の格好をした 衣怜いれも可愛いよな」


「は、はい? きゅ、急になによ?」


「……いや。可愛いなって」


「はわわわわわわ! な、な、なななにを言ってるのよ。い、今は仕事中だよ!」


「いや。さっきキャンプしてるみたいって言ってたじゃないか。それに今は配信してないしね」


「そ、そうだけど……」


「ふふふ」


 彼女は困った様子でチラチラと俺を見た。


「……ま、 真王まおくんもね。カ、カッコいいよ。探索者の格好」


「そか。ありがと」


「う、うん。すごく素敵」


「ふふふ」


 俺は彼女の横に座った。


「ま、 真王まおくん?」


「探索者の格好のまま……。とかさ」


「え!? え!?」


「……ダメか。やっぱそうだよな。そういうのはよくないよな。うん。不謹慎だ」


「……あ、えっと」


 彼女は全身を赤らめた。

 期待と羞恥心が入り混じった表情を見せる。


「ダ、ダメじゃないけど……」


「いいの?」


 コクン。

 彼女は黙って頷いた。


 やった!


ガバッ!!


 俺たちの夜は更ける。

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