第20話 寺開のスキル
「ひぃいいい!!」
大した怪我はしていないのに地面を這っているのだ。
おそらく恐怖で足がいうことを聞いてくれないのだろう。
さて、
「おまえの処分だがな
「ひぃいいい!! た、助けてくれぇええええ!!」
やれやれ。
都合のいいことを言う。
こいつは、
財団に不利益な人物はダンジョンの中で殺害してきたという。
この悪行を見過ごすわけにはいかない。
「おまえがやってきた殺人行為は許されるものではない。コウモリに記録したおまえの言動は警察に提出させてもらう」
「そ、そ、そんなぁああ! 頼む、それだけはぁあああ! それだけは勘弁してくれぇええええ!!」
できるわけがないだろう。
「
「……じ、
「そ、そんなこというなよぉおお! それはおまえの勘違いなんだぁあああ! 俺はおまえのことを心から愛していたんだよぉおお!!」
「あなたは私の体だけが目当てなんでしょ。なにもかも、ここにいる
「頼むぅうう!! 許してくれぇええええ!!」
「私だけならいざ知らず。
そう言って、大剣を構える。
「動けないようにめった打ちにしてやるわ」
その時。
胸元から何かを取り出す。
「気をつけろ
取り出したのは小さな鈴だった。
「グフフ。これはモンスターを引き寄せるレアアイテム。魔寄せの鈴だ」
それを振るとチリンチリンと邪悪な音が鳴り響く。
「
やれやれ。
「最後のあがきか」
しかしな。
このダンジョンのモンスターをいくら集めたところで、俺たちにとってはなんてことはないんだ。
俺と
刹那。
「
スキルでも使ったのか?
すると、1匹の狼の体に
あれはプラントガウ。緑色の毛をした木属性の狼型モンスターだな。
「ギャハハハ! これが俺のスキル
ふむ。
中々に早い。
「ギャハハハ!! 追いつけまい!! あばよぉおおおお!!」
やれやれ。
そういうスキルがあるならもっと他に役立てればいいものを。
「言うのを忘れたがな。魔法には射程距離というのがあってだな。俺の防御魔法は50メートルなんだ」
なので、おまえは圏内さ。
進行を妨害する壁を出現させることくらい造作もないこと。
「
ガシン!
「ギャウッ!」
「ク、クソ! だったらこっちだぜ!!」
向きを変えても同じこと。
「
「あぐぐぐぐ……。に、逃げれん……」
追い詰められた悪党がするのはだいたい相場が決まっているがな。
「だったら噛み殺してくれるわぁああああああ!!」
やれやれ。
だから、無駄だと言っているだろう。
「
奴は壁に顔をぶつけた。
鼻の骨がボキっと折れる。
まぁ、もっと骨は折れるだろうがな。
「
「わかったわ」
彼女は大剣を振り上げた。
「2度と、私たちの目の前に現れないで!!」
魔法壁は
「ぎゃぁああッ!!」
ボキボキボキーー!!
当たった衝撃で全身の骨が砕けたのがわかる。
ダンジョンの壁に挟まれれば再起不能だろう。
しかし、奴は吹っ飛ばされながら笑った。
奇妙にも、勝利を確信しているかのように。
「フハハハ! バ、バカめ! こ、この時を待っていたんだよぉお! 俺を舐めるんじゃなぁあないぞ!
なんのことだ?
奴の負けは確定だが?
「こっちなんだよ! 吹っ飛ばされる場所が重要だったんだぜ!!」
それはボスルームの扉だった。
うん?
そして、
「
ボスルームから強烈な発光。
あーー。なるほど。
周囲の壁に穴が開くと、そこから顔を出したのは緑色の触手だった。
「ククク……。湧いてくるぞ力が」
ズボ! ズボ! と次々に穴が開く。
「グハハハ! この時を待っていたんだよぉおおお!!」
周囲の壁が全て破壊される。
土煙が舞い上がると巨大な影が揺らめいた。
「ハハハハハ!」
ボスルームから出てきたのは巨大な蔦の化け物だった。
しかも、その中心は
「
「ああ。どうやら、ダンジョンボスの体と
奴の笑いがこだまする。
「ギャハハハ! 乗っ取ったと言って欲しいなぁああ!! ボスの力で俺の力が何十倍にもなったぜぇえええ!!」
そう言って周囲の壁を破壊する。
「見ろ! この威力! 圧倒的パワー! 人間を超越した力だぁああ! ギャハハハ!!」
やれやれ。
これはこれで盛り上がって来たな。
よし、ここからは配信をスタートさせようじゃないか。
ボス戦だけを視聴者にお届けしよう。
「ども、俺です。さっきはボスルームの前で配信を切ってしまってすいませんでした。ちょっとカメラの不調だったんです。あれ見えますか?」
「フハハハ! 全て破壊してくれるわぁあああ!!」
「すごいでしょ。喋るボスモンスターですよ。人面樹っていうんでしょうかね。新種のモンスターかもしれません。ちょっと今から戦ってきます」
「なにをこそこそと喋っているのだぁあああああ! 片井ぃいいいい!!」
うぉい!
俺の名前言うなよな。
えーーと、誤魔化しておこうか。
「あのモンスターは破壊してる壁が硬いと言っています」
よし、これでなんとかなっただろう。
「グハハハ! 俺は最強だぁあ!!」
「随分と自信があるんだな?」
「グハハ! 当然だろう! グレインハウズと同化したのだからなぁああ! S級モンスターだぞぉおお!!」
ほぉ。
「喋るグレインハウズのようです」
「貴様……。さっきからコウモリに向かって話しかけているな。もしかして配信をしているのか?」
「ああ、折角だからな」
「……フッ。ハハハハ、バカめ! 貴様の死ぬ姿を全世界に晒すだけだぞ!」
「それはどうだろうな?」
「ギャハハハ! これはいい! 最高の展開だ! 褒めてやる!!」
「そりゃどうも」
「グハハハ! では、見せてやろう。最強の力を!」
「悪役全開って感じだな。ボスモンスターらしいよ」
「やかましい! 勝てば正義なんだよぉおおお!! ギャハハハ! 死ねぇええ!!」
奴は触手を伸ばしてきた。
凄まじい速度である。
一撃でも喰らえば命はないだろう。
まぁ、当たればの話なんだ。
「
「フハハハ! 貴様の貧相な魔法壁など、ぶっ壊してくれるわぁああああ!!」
ガン!!
魔法壁はビクともしなかった。
「な、なにぃいい!? こ、この! このおお!! 壊れろぉおおお!!」
「だから、言っているだろう。俺は魔法壁を強化できるってな」
「そ、そんな! だからってなぜだぁああ!? なぜ破壊できんのだぁあああ!! これしきの魔法壁ぃいい!! 俺はボスの力を手に入れたんだぞぉおおお!!」
「鉄壁さんは、どんな攻撃も魔法壁で防ぐのよ」
「にゃぃいいいいいいいッ!?」
「壊れん! ひび一つ付けることができんんん!! なんなんだこの壁はぁああああ!?」
まぁ、念のためだがな。
過剰に強化しておいた。
「魔法壁50倍。おまえに傷は付けれない」
さぁ、お仕置きの時間だな。
「今までは、魔法壁を掌底で押し込んで倒していたんだがな。おまえに対しては生緩いと感じた」
今まで殺された人々の無念。
よって、
「拳で制裁を加えることにした」
「こ、このぉお! 壊れろ壊れろ壊れろぉおおおおお!!」
俺は壁に向かって拳を大きく振り被った。
その拳で、
壁を、
打つ!
「はぁあッ!!」
その壁は、掌底で押し込んだ時より何十倍ものスピードで移動する。
そして、勢いよく
「アギャァアアッ!!」
そのまま50メートルほどぶっ飛んで行く。
盛大な衝突音と血肉が周辺に舞い飛ぶ。
うむ。
おまえが言っていた言葉をそっくりそのまま返そうか。
「勝てば正義なんだろ?」
しまった、ちょっとカッコつけてしまったかもしれないぞ。
そんなつもりは微塵もなかったのだが……。
「ふはぁ……。て、鉄壁さん……。カ、カッコいい……」
思いっきり見られたぁ……。
これ配信してるんだったな。
ちょっと黒歴史になったかもしれん。
やっちまったな。
その時である。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
地響きが鳴り響く。
「鉄壁さん。ダンジョンが消滅するよ!」
「ああ」
どうやら、ボスが絶命したようだな。
地響きが治ると、俺たちは地上に戻っていた。
「はい。というわけで、ダンジョンクリアです。ご視聴ありがとうございました」
俺は祈りながらコウモリの電源をオフにした。
最後のセリフは忘れてくれますように、と想いを込めて。
遠くに横たわるのは、体がグチャグチャになった
血だらけで、あちこちの肉が削げ落ちて骨が飛び出ている。
にもかかわらず、
「
よし。通報しようか。
「安心しろよ
数分後。
彼が率いた、探索者たちも同罪である。もちろん、
警察に提出した動画は
当然、身バレを防ぐために俺の顔は写っていないのだが……。
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