第12話 衣怜と探索

 俺が 衣怜いれを仲間にしてから数日経つ。

 俺たちはB級ダンジョンに潜っていた。


 普段、A級を攻略している俺からすればランクを落としているのだがな。


 なんでも、 衣怜いれは自分の剣技を鍛えたいという。

 そんなわけで俺の提案で格下のダンジョンに潜ることにしたのだ。弱いモンスターを相手にすれば剣技が鍛えられるからな。


 彼女が攻撃の要になればパーティーはより強固なものになるだろう。俺の防御、彼女の攻撃。うむ。悪くない。


  衣怜いれは大剣を振るった。


「たぁあああ!!」


 ロックスライムが一気に3匹切断される。


 うん、いいぞ。


「斬撃の威力が増しているな」


「まだまだです。こんなんじゃ鉄壁さんの足手纏いになっちゃいます。はぁーー!!」


「そうはならんがなぁ……」


 そもそも、彼女は雑用をしてくれている。

 その上、取得したアイテムは彼女の収納スキルで運んでくれるんだ。

 彼女が望むから、剣技が伸びるように協力はしているがな。本来なら、そんなことはしなくてもいいんだ。


「だああッ!!」


ズバァアアッ!!


 おお、彼女1人でC級のモンスターを全部倒しちゃったぞ。


「お疲れ様。かなり慣れてきたね」


「はぁ……はぁ……。ありがとうございます。おかげ様で、大剣の使い方がわかってきました」


 ふむ。この調子ならB級モンスターのボスも大丈夫そうだな。

 これなら俺が防御で彼女が大剣で攻撃というコンビネーションが使えるぞ。


 最下層。 

 俺たちはボスルームに到達する。


 そこに現れたのは体高5メートルと超える大きな蜘蛛だった。


「鉄壁さん。ボスはダブルスパイダーです!」


 うむ。

 分裂する蜘蛛型のモンスターだな。


 それにしても、デカすぎてシンプルに気味が悪いな。


「糸に気をつけろ。捕まると身動きできなくなるぞ」


「はい!」


 彼女は素早い動きでダブルスパイダーの攻撃を躱す。

 そして、


「たぁああッ!!」


ズバァアアアンッ!!


 彼女の大剣が蜘蛛を切断する。

 しかし、ダブルスパイダーは分裂していた。


「あと1匹です! たぁああああ!!」


 再び、彼女は大剣で蜘蛛を切断する。


ズバァアアアンッ!!


「やりました! 分裂した2匹を倒しましたよ!」


 いや。


「油断しちゃダメだ」


「え!? きゃああ!!」


  衣怜いれの足元に糸が絡まる。


「う、動けない!」


 蜘蛛は 衣怜いれに牙を向けた。


『キシャアアアッ!!』


「きゃああ!!」


 おっと。

 そうはいくか。


攻撃アタック 防御ディフェンス


 魔法壁で防御する。

 発現した瞬間に、壁の力で蜘蛛の糸を切断した。


「これで蜘蛛の攻撃は通らない」


「ありがとうございます! でもどうしてでしょう? 蜘蛛は2匹倒したのに、また増えましたよ。無限に再生できるんでしょうか?」


「いや。倒すタイミングだな」


「え?」


「2匹に分裂した時は両方を同時に倒さないと、残った体で再生してしまうんだ」

 

「なるほど。同時ですか……」


「そう」


 俺の魔法壁を使えば2匹くらい同時に倒せるがな。

 

「1匹は任せてもいいか?」


「私と鉄壁さんとで同時に倒すんですね!」


「ああ」


「わかりました!」


 俺は魔法壁を押した。

 彼女は大剣を振り上げる。


「よし。今だ!」


「はい!」


 俺は魔法壁で蜘蛛を押した。ダンジョンの壁で挟んで倒す。

 彼女は大剣で蜘蛛を切断した。


 うん。同時だ。


『『 ギィヤァアア!! 』』


 ダブルスパイダーは奇声をあげて絶命した。


「よし」


「やりましたね!」


 今のは中々に熱かったな。


 探索らしいバトルだった。


 コメントも賑わってるし。


『カッケぇええ!!』

『乙です!』

『秘書ちゃん強い!』

『名コンビだな』

『いい!』

『秘書強すぎ、ワロタ』

『可愛くて最強とかどんだけw』

『美しい……はっ!』

『ええやん』

『萌えた』

『熱いバトルいいよね』

『最高!』

『お疲れ様ーー』


 投げ銭は10万円以上が入っていた。


「あは! 魔晶石もたっぷりです。亜空間に収納しておきますね」


 うむ。

 魔晶石の売り上げも彼女と折半したいな。

 金銭の分配とか、色々とやるんなら事務所を立ち上げるのがいいかもしれない。

  炎の眼フレイムアイでは赤木が金の管理はしてたけど、分配はあいつの匙加減だったしな。

 平等にするなら事務所があった方が便利か。


 俺と 衣怜いれは居酒屋で労をねぎらうことにした。

 と、いっても、彼女はまだ17歳だからな。乾杯はコーラでしてもらう。


「「 乾杯 」」


 ぷはーーーー!


「ビールうめぇ!」


「コーラが美味しいです」


衣怜いれのおかげでさ。何もかもが順調だよ」


「いえいえ。全部、 真王まおさんのおかげです。今日だって、ボス戦は 真王まおさんがいないと危なかったですし」


「まぁ、パーティーだから助け合えばいいじゃないか」


「えへへ。そう言ってくれるととても楽です」


 俺は報酬の話をした。


「え!? 折半!? は、半分もくれるのですか?」


「当然だろ?」


「も、もらい過ぎです! 私は雑用係なんですから」


「いやいや。十分、立派な仲間として活躍してくれてるよ」


「……うう。 真王まおさん、優しすぎです」


「事務所とかがあると何かと便利だと思うんだよな。配信の視聴料とかさ。投げ銭の管理ができるよね」


「ああ。確かにそうですね」


 しかし、俺の家はボロいマンションだしな。

 ワンルームマンションで事務処理はきつい。


「収入は安定してるからどこか事務所を借りてもいいかもな」


「いいですね。えへへ。そうなると、 真王まおさんが社長か」


「俺が?」


「勿論ですよ」


 ……そ、そうなるのかな?


「私は本格的に 真王まおさんの秘書になれるんだ。うふふふ」


「随分と嬉しそうだな?」


「えへへ。だって、 真王まおさんが事務所を作れば絶対に繁盛間違いなしですからね!」


「まぁ、君の期待に応えらるように頑張るよ」


「私も全力でお手伝いしますね」


「ありがと。助かるよ」


「はい。社長」


 大きな事務所を借りて引っ越しをするのも手だな。

 ふふふ。おんぼろのワンルームマンションを卒業する日が近いぞ。

 これは楽しみだ。


「あ、あの……。明日。オフですよね?」


 と、 衣怜いれは顔を赤らめる。


 毎週土日は休日だ。

 週休2日は絶対だよな。

 

衣怜いれは疲れているだろ。ゆっくりすればいいよ」


「……ま、 真王まおさんはご予定とかあるのでしょうか?」


「事務所探しの不動産巡りでもする予定さ」


「わ、私もついて行っちゃダメですか?」


「……別にいいけど?」


「本当ですか! やった! ありがとうございます!!」


 そういえばオフの日に会うのは初めてだな。

  衣怜いれの私服姿ってどんな感じなんだろう?


 彼女は肩を躍らせているのだった。

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