第9話 片井と美少女

「私。沖田  衣怜いれって言います」


「俺は片井  真王まおだ」


 俺たちは俺のテント場へと移動していた。

  寺開じあくが気絶して、それを仲間が介抱する。場は騒然としていて、ゆっくりと話せなかったのだ。


「本当にありがとうございます。片井さんのおかげでとても助かりました」


「あんなリーダーじゃ嫌になるよな」


 俺は彼女にコーヒーを入れた。


「あ、ありがとうございます」


 少しゆっくりとお茶をする。


「……話。聞いてくれますか?」


 乗りかかった船だ。

 俺は彼女から事情を聞いた。


 彼女は17歳の高校2年生。

 ダンジョン専門コースを選考しており、探索は彼女にとって勉強の一環らしい。

 この美貌で配信をしていたら、たちまちアイドル探索者だがな。顔出し配信はNGなんだとか。

 まぁ、その方が気楽だよな。


 彼女は 寺開じあくのパーティーで雑用係として働いていたそうだ。

 主にアイテムの運搬が中心。収納スキルでゲットしたアイテムを運んでいたそうだ。

 あとは料理を作ったり、マッピングをしたりと様々。パーティーにとっては貴重なアシスト役だったという。

  寺開じあくはそんな彼女を無能扱いして、あげく、体を求めたということだ。


 あの 寺開じあくのやり方は人として終わっているよな。

 彼女はパーティーを出て正解だったと思うよ。あんな仲間じゃ、彼女の将来にならないよな。


「……私。才能ないのかな」


「そんなことはないと思うよ。収納スキルとかめちゃくちゃ便利だしな」


「本当にそう思いますか?」


「ああ。パーティーは役割分担だよね」


「……片井さんの仲間の方はどこにいるのですか?」


「俺は単独だよ」


「た、単独?」


「ああ」


「こ、ここA級ダンジョンですよ? 最近ではS級に昇格する話すら出てるくらいです」


「だよね。成長がすごいもん。随分と広くなってる」


「そ、そんなダンジョンで単独……」


 彼女は俺のコウモリカメラを見つめた。


「配信……。やられているのですか?」


「うん。まぁね……」


 顔出しはNGだからな。チャンネル名は教えたくないや。


「……良かったら、チャンネル名を教えてくれませんか? 私、見てみたいです」


 うは。そうきたか。


「ははは。まぁ、その……。細々とやってるだけだからさ。人様に教えれるような配信じゃないんだ」


「で、でも、上級ダンジョンを単独探索なんてすごいと思いますけど……?」


「は、ははは。まぁ、大したことはないよ」


「そ、そうですか……。差し出がましいことを言ってすいません」


「いや。気にしないでくれ。えーーと。今日はもう遅いからさ。このテントで泊まって、明日、ダンジョンの出口まで送っていくよ」


「そんなことまで……。私、1人でどうやって帰ろうかと悩んでいたところだったんです。片井さんがいるなら心強い。本当にありがとうございます」


 じゃあ、寝床の準備だな。


 と、その時である。


 ギチギチと蠢く音が周囲に響いた。


「きゃあ!! グレイトスコーピオンです!!」


 それは3メートルを超える大きな蠍のモンスターだった。

 紫色の外骨格が中々に毒毒しい。


 テントを囲んでいた魔法壁に隙間があったんだな。

 そこから侵入したのか。


「わ、私も戦います!」


 彼女は亜空間から大剣を取り出した。


「あ、大丈夫だよ」


「し、しかし! A級モンスターですよ!」


「あ、うん」


 グレイトスコーピオンは飛びかかって来た。


「きゃああ!!」


攻撃アタック 防御ディフェンス


 モンスターは魔法壁に弾かれる。


「は、早い! あんな一瞬で魔法壁を張るなんて……」


 まぁ、これくらいしかできないからな。


 グレイトスコーピオンはカサカサと素早く動く。

 魔法壁の死角を突いて尻尾の先から液体を飛ばしてきた。


「きゃあああ!! 毒液です!!」


 だから、効かないっての。


攻撃アタック 防御ディフェンス


「は、早い!」


 まぁ、慣れだよね。


「い、一瞬で魔法壁を……。これなら敵の攻撃が当たらない」


 反射的に体が動くんだよな。


「と、とどめは私が! はぁああッ!!」


 と、大剣で切り掛かる。

 しかし、


ガン!


「きゃああ!!」


 彼女の大剣は蠍の外皮に弾かれた。


「か、硬いです!」


「だね」


「やはり攻撃魔法しかなさそうです」


「あ、うん。そうなのかな」


「お願いします」


「何を?」


「攻撃魔法です。使えるのですよね?」


「いや。そんなのは使えないよ?」


「え!? 武器も持たず、攻撃魔法も使えない? では、どうやって硬い敵を倒すのですか!?」


 どうやってってなぁ……。


「ま、また襲って来ました!! 片井さん、逃げましょう」


「いや。その必要はないよ。攻撃アタック 防御ディフェンス


 再び攻撃を防ぐ。


「流石です! しかし、防御だけでは倒せない! くぅ! 歯がゆいですね!」


「あーー。一応、倒す方法はあるんだ」


「え?」


 俺は魔法壁の壁を押し込んだ。


「こうやってさ。ほい」


ベチャァアア!!


 グレイトスコーピオンは魔法壁とダンジョンの壁に挟まれて絶命した。


「よし」


「な!? ま、魔法壁で挟んで……」


 お!

 グレイトスコーピオンが魔晶石に変わったぞ。

 これは今までリュックに入れていたけどさ。収納スキルが使えるんなら便利だよな。


「沖田さん。この石は収納スキルで運べるよね?」


「…………す、すごい」


「え? なんか言った?」


 攻撃魔法が使えないなんて幻滅したかな?

 やっぱり、防御魔法だけなんてしょぼいよな。

 ……それにしては、なんか体がプルプル震えているようだが?


「どうしたの? 怪我でもした?」


「も、もしかしてあなた……。片井さん……」


「ん?」


「単独探索……。防御魔法でモンスター撃退……。ま、間違いない」


 はい?


「鉄壁さんですか?」


「え? なんのこと?」


 彼女は俺に詰め寄った。


「あなたが鉄壁の探索者だったのですか!?」


 はいい?

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