間章ー1 夢縛石の遺失
メテオリテがスマホのグループチャットを確認すると、5人はそれぞれ無事に転生したということがわかったので、地下の須菩提祖師のいる部屋に入った。その部屋は石でできており、洞窟のようである。平たい大きな石にランタンが灯してあり、そこに須菩提祖師は座禅をしていた。
「無事に転生したようです」
メテオリテは須菩提祖師に一礼してから報告した。
「そうか。夢縛石がアヌ様の神殿からなくなったそうだ」
須菩提祖師は表情をかえずに、メテオリテと視線を合わせた。
「夢縛石・・・人間の夢を操ることができるという・・・兄弟子からきいたことがありますが・・・」
メテオリテは自分が疑われているのではないかと思い、冷や汗をかいた。
「そうだ、その夢縛石だが・・・5人の転生と無関係ではなかろう。アヌ様の神殿に保管してあったのだが・・・ラマッシュに与する者の仕業ではないかとアヌ様はみておる。其方はどう思う?」
「私もそのように思います。ラマッシュ様は欲望と戦争の神ですから。人間が夢を信じるのを利用したのではないかと・・・ところで、これも兄弟子からきいたのですが、北極星から使命を帯びた人間が日本にいて、ラマッシュ様の結界の中にいるとか・・・先生はご存知ですか?」
メテオリテは兄弟子の鳳凰からきいた話を須菩提祖師にも確かめてみた。
「北極星・・・紫微星のことだな。アヌ様の依頼ではないようだ。紫微星が人間たちを哀れに思い、自分の力を与えた人間が生まれているのは知っているが、力が弱い。やはり、5人を転生させて、修行をさせてから、その人間と一緒にもう一度転生させないと、その人間は人類を救うことはできないだろう。ラマッシュの結界の中にいると、欲望の虜になるのは仕方のないことだ」
須菩提祖師はランタンに視線を移し、フゥっと一息ついた。
「これも兄弟子からきいたことですが、候補生は二人いるとか・・・」
「うむ。二人いるが・・・一人は今、非常にうまくやっているから、転生に協力はしないだろう。もう一人もどうなることやら。ラマッシュがいなければアヌ様も存在できなかったしな。戦と欲望があって、人間は進歩した一面があるのだ。しかし、今のようにラマッシュの魅力にとりつかれた人間が多いと人類は存続できない。ラマッシュはこれをいい機会に、人類が支配する世界から、人工知能が支配する地球にしようと企んでいるのだ。しかし、人工知能が我等に敬服するだろうか。ラマッシュはアヌ様を追い出し、自分が盟主になるつもりだが、人工知能は果たしてラマッシュを神として崇めるだろうか。お前も自分の身の振り方をよく考えるのだ」
メテオリテはやはり自分は疑われているのだと分析した。そして、須菩提祖師の前でひざまづいた。
「確かに私のところにラマッシュ様に与するものたちが集っていますが、私は奴らの企みを知ろうと思っただけです。裏切るつもりはありません」
メテオリテは汗が頬をつたわるのを感じた。須菩提祖師はメテオリテに近づいて頭に手をかざした。その手から光が放たれ、メテオリテの頭に反射した。
「まぁ、よい。お前に裏切るつもりはなくても、利用されているかもしれないという疑いを常にもつことだ。そして、自分自身で深く考え、慎重に行動することだ」
須菩提祖師は言い終わると、また石の上に座り、座禅を始めた。
「今夜はきのこ粥をお持ちします。失礼します」
メテオリテはもう一度、土下座をして地下の部屋から出た。休憩室に戻って、テレビをつけると、新自由主義政策について解説している情報番組をみた。月のような瞳に理知的な口元をした美人人気コメンテーターが出演していた。ネットカフェ、メテオリテの客でもあるが、兄弟子の鳳凰からきいた話では、このコメンテーターが紫微星の力を与えられた候補生の一人でもあるらしい。須菩提祖師の言うように、テレビに出演しているくらいだから、わざわざ危険を冒して転生するわけないか、と思い、フゥっと息を吐いた。
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