青章ー2 ラムカムヘン王子の護衛兵になる

「珍しい青の勾玉だな。我が方は知らん。話したいことはそれだけか?」


 ラムカムヘン王子は優しく穏やかな口調で訊ねた。ウィンは顔を上げて、再度、合掌して懇願した。


「私を軍に加えて頂けないでしょうか」


「そういうことなら、私もお願いします」


 タイもウィンに便乗するかのように、合掌して懇願した。


「ふむ、考えておこう。ところで、その首から掛けている四角のものはなんだ?お守りか?」


 ウィンはラムカムヘン王子に会えたことに気分が高揚していた。そして、ウィンはスマホを起動させて、カメラを自分とラムカムヘンに向けた。


 スマホに映ったウィンの髪は男子であるべく、短くしていたが、顔は卵型で瞳は湖のように深く、アーチ型の眉、鼻は細く高く、口角は上がっており、いわゆる美少女みたいな顔をしているのは、変わってなかった。そして、ウィンは男だったが、自分が男だとは思えないし、今まで好きになった人も男だった。ラムカムヘン王子を観察すると、美男子ではないが、男らしい面長で、キリリと一文字の眉が精神の強さを

表している。目は穏やかな印象を持たせる二重の瞳で、上背もあり、ウィンは172センチだから、ラムカムヘン王子は180センチといったところである。


 フラッシュがたかれて、カシャッという音がすると、ラムカムヘン王子はびっくりして、ウィンのそばに寄ってきた。


「携帯電話というものです。これは私のお守りです」


 ウィンはスマホで撮った写真をラムカムヘン王子にみせた。ラムカムヘン王子は珍しそうにスマホをいじくりまわしたが、取り上げようとようとはしないで、ウィンに返してくれた。


「お前が只者ではないとわかった。よし、いいだろう、お前たちをわが軍に迎え入れよう。我が方の護衛になるとよい。これからは護衛隊長の指示に従うように。誰か、護衛隊長を呼べ」


 ウィンとタイは再度、合掌して礼を言い、しばらく待っていると、中年の髭をはやしたかっぷくのいい護衛隊長が来て、ウィンとタイについてくるように言い渡した。


 ウィンとタイが護衛隊長についていくと、護衛兵の休憩用のテントに案内された。


「この者は副官をしている、グリーンだ。お前らは運がいいな。投降兵なのに、護衛兵になれるとはな。まぁ、しっかりやれよ。裏切れば命はないぞ、わかったな」


 ウィンが紹介されたグリーンをみると、身長は185センチくらいで、頬骨がもりあがっており、眉は太く、目が二重で理知的な印象を漂わせており、鼻も高い美男子だった。年齢もウィンと同じ22歳位にみえる。ウィンはボーッとして、挨拶できないでいると、タイが自己紹介し始めた。


 ウィンがボーッとしていることに気づいたタイはパシッと、ウィンの肩を叩いた。ウィンは正気になり、しどろもどろに自己紹介をした。


「こいつ、戦闘のショックで記憶を失っているんです。許してやってください」


 タイはペコペコしながらウィンをかばった。


「ラムカムヘン王子に一撃でやられれば、そういうこともあるだろう。相手が悪かったな。まぁ、クン・サームチョンは同じタイ族だ。ラムカムヘン様もインタラティット様もタークはこれまでどおり自治を認めるというお考えだそうだ。クメールに朝貢するより、同じタイ族に忠誠を誓う方がよいだろう。モンゴル軍がパガンを狙っているという情報もある。お前たちを軽んじたりはしないから安心しろ」


 グリーンはタイとウィンに戦闘服や装備品を渡しながら穏やかな口調で語りかけた。グリーンの紳士的な態度にウィンもタイも安心することができ、3人で笑いあった。支給される夕食には、肉はないが、魚の干物はあり、野菜の和え物もあって、おなかを満たすことができた。タイは他の護衛兵と仲良くなろうと頑張っているが、ウィンはグリーンのことが気になっていた。投降兵の自分に穏やかに接してくれたのはグリーンだけではなかったが、グリーンのことがなぜこんなに気になるんだろうという自分の感情をもてあまし、木陰で一人になり、スマホを起動させた。


 スマホのグループチャットをみると、自分が一番、最後のようだった。タイの話や今の状況をみると、今は西暦1250年代末である。日本人や韓国人と比べて600年位あとである。ウィン(サラワット)は政治学で留学したので、アジアの歴史についても興味があったので、自分で調べて知っていた。どうやら、それぞれ、その国の成り立ちに沿って転生しているのではという結論に至った。


「私はスコタイに転生した。ラムカムヘン大王に会った^^」


 グループチャットのメッセージボックスにタイプして送信すると、タイが近寄ってきたので、スマホをさわるのをやめた。


「こんなところにいたのか。俺はスコタイの兵と仲良くなったぞ。これはおすそ分け。酒だ。飲め」


 タイはみると千鳥足だった。ウィンは酒を受け取り、飲むと、タイはその場に倒れこんだ。ウィンは仕方なく、タイを介抱して、寝どころのあるテントまで送って、自分も隣で寝た。


 大きな白い象がワォーンと鼻を振り、ウィンの手前で止まった。


「この世界も悪いものじゃない。名誉や恋が思うがままだぞ」

 

 白い像はもう一度ワォーンと鼻を振り、霧がかかって消えた。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る