白章ー2 大海人皇子に仕える
「知らんなぁ、母上の斉明大王なら持っているかもしれんが・・・その石は王家の秘宝なのか?」
大海人皇子は穏やかな口調で質問に答えてくれた。しずはこんなに簡単にミッションが終了するわけじゃないなと考え、間者としての自分の任務を思い出した。
「内々に申し上げたいことがあります。人払いをお願いします」
大海人皇子はしずの願い通り、人払いをして、しずを座敷に招いて、戸を閉め、奥に座り、しずにも座るように促した。
「希望通り、人払いをしたぞ。申してみろ」
しずは再度、土下座をして、顔を床につけた。
「私は、蘇我赤兄様から派遣された、中大兄皇子の間者なのです。私の正体を明かしたのは、大海人皇子が将来、大王の位を継ぐものだと知っているからです」
大海人皇子は扇子を取り出し、パチッと床を叩いた。
「滅多なことを言うな。其方をここで殺すこともできるのだぞ」
大海人皇子は特に驚いた様子もなく、しずに釘をさした。
「私は有馬の皇子の間者で、殺されかけたのです。この巾着は蘇我赤兄様から受け取ったものです」
しずは金塊がいっぱい入った巾着を大海人皇子に見せた。大海人皇子はしずの差し出した巾着には興味を示さなかったが、しずの首にかけてあるスマホに視線を合わせた。
「その、首から掛けているものはなんだ?南蛮の玉のようだが」
大海人皇子は笑顔をつくって、しずのスマホを目を凝らしてみていた。
「これは携帯電話です。こんなこともできるんですよ」
しずはカメラを自分と大海人皇子に向けて、カメラに向かって、ピースをして、写真を撮った。カメラに映る自分は二重だが、細い目で顔も細いので、狐顔だとからかわれた顔は変わってなかった。身長も162センチで変わってないようである。大海人皇子は、美男子ではないが、好感のもてる丸顔で目も優しかった。意思の強さを表しているかのように口元は真一文字で、身長は170センチくらいであろうか。
大海人皇子はびっくりして、スマホを取り上げようとしたが、しずは背をむけて、スマホを守った。
「お前、無礼であるぞ。その携帯電話とやらをとりあげないからよく見せてみよ」
しずはスマホを渋々、大海人皇子に渡した。
大海人皇子は珍しそうにスマホをいじくりまわしたが、すぐに返してくれた。
「わしには、これは使えぬ。お前はわしの妻に仕えるがよい。蘇我赤兄への報告は勝手にするがよい。わしは中大兄皇子に歯向かう気はない」
大海人皇子は穏やかな口調でしずに言い渡すと、部屋から出て人を呼んだ。
「この者は本舘しずと申すもので、大田皇女に仕えさせよ。しず、何かあれば大田皇女に相談するのだ。其方の探している石も大田皇女なら探せるやもしれん」
しずは笑顔をつくり、再び土下座をした。呼ばれた者はしずに目で合図したので、しずは部屋を出て、その者のあとについていった。
「お前、相当強いコネを持っているんだな。大田皇女はなかなか厳しい人だから、口に気をつけるんだぞ。『はい、わかりました』という以外はよく考えて返事をするんだ。わかったな。俺はこの屋敷の家宰で、下田康成だ。これから大田皇女の下女を取り仕切っている美津に会わせてやる。お前は美津の指示で働くんだ」
しずは自分の状況を分析した。美津には自分の正体を明かさないほうがいいだろう。そして、一生懸命働いて、美津の信頼を勝ち取り、大田皇女と気楽に話せる時が来るのを待とうと考えた。
美津は中年の女性で大田皇女が生まれたときから世話をしているのだと言う。なかなか、剛毅な女性で、しずに寝る場所を案内してくれた。一人部屋ではなく、大海人皇子の妻たちの下女は一緒に寝るという話だった。私物はどうするのかきくと、それぞれ各自で管理していると言われた。しずは金塊とスマホをどうしようか考え、夜になったら、木の下にでも掘ろうと決心した。
「今日は私と一緒に行動するように。明日からお前の仕事を用意するからね」
美津はしずを連れて、座敷にあがり、大田皇女に会わせた。
美津はしずの紹介をして、大田皇女はうなづくだけだった。しずが大田皇女の顔をみようとしたら、美津の手がしずの裾をひっぱり、視線を合わせるなと目で合図した。美津と共に、土下座をして、大田皇女の部屋を出て、厨房や洗濯所を案内された。裏庭に大海人皇子の私兵の訓練場もあった。しずは訓練場と厨房の堺に木があるのを発見して、あの木の下にスマホと金塊を埋めようと考えた。5時になると、夕飯が支給された。麦飯と味噌汁、漬物だけだった。食べようとすると美津に呼ばれ、大田皇女の部屋に案内された。
「其方、私に何か申すことはないか?大海人皇子に何を申した」
大田皇女は厳しい目でしずを見据えた。その威圧感にしずは圧倒されて、土下座した。
「私は間者なのでございます。どうか、お許しを」
しずは両手をこすり合わせて、命をつなぎとめようとした。
「わかった。よく申した。今日から其方は私と一緒に食べることだ。そして、私が申す通りに報告するのだ。さぁ、これがお前の夕飯だ。そして、其方は私の隣の部屋で寝起きするのだ。勿論、一人部屋だ。そして、この巾着にお前の好きなものが入っている」
膳は二人分用意され、焼き魚に汁物、副菜も3種類ある。ご飯も白米だった。巾着は刺繍のしてある、綺麗な緑色のもので、持ち上げると、コツコツと金属の音がした。
しずは機嫌がよくなり、大田皇女は身分の高い人らしく、少しづつ食べたが、しずはガツガツ食べ、その食べる姿を見て、大田皇女はホホホ・・と笑った。
「おかわりもある。食べたら、寝ればよい」
大田皇女はおかわりを勧めてくれたが、さすがにそこまではと遠慮して、美津が案内してくれた部屋で寝ることにした。
部屋で一人になると、スマホを起動させた。そして、グループチャットのメッセージを読むと、それぞれ転生に成功しているようである。みると、年代が近いのは韓国の勇俊である。
「西暦658年に転生した。金塊がいっぱい」
メッセージを書き残し、先ほどもらった巾着をみると、予想したとおり金塊がいっぱい入っていた。鍵があるわけじゃないので、ここは、やはり危険かと思い、先ほど見つけた木の下を掘ろうと思い返した。
木の下を掘り、金塊とスマホを隠すことに成功したら、気持ちがラクになり、寝ることにした。
白鶴がしずの前に降り立った。
「ここでの世界は褒美が沢山もらえる。この世界の住人になるのだ。富が得られるぞ」
白鶴はこう言うと、金塊をくちばしでしずに渡し、翼を広げて飛び去った。
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