黄章ー2 劉邦軍へ降る

 命を賭けて進言し、劉邦軍に降ろうとしているが、鵬徳にはイマイチわからないことがあった。なぜ、魏無知の配下になって転生したのか?なぜ、劉邦軍の誰かではなかったのか?

 

「それは、玉か?珍しいな?」


 魏無知は鵬徳が首にかけているスマホが気になった。


「ああ、これは携帯電話です。一緒に撮りましょう」


 鵬徳はスマホのカメラを魏無知と自分に向けた。自分の姿は相変わらず、目元がシャープな一重の切れ長で頬骨が出ている、地元の西安では割ともてたこともあるのだ。大学受験に失敗してからは、すっかり女にはもてなくなっていた。魏無知は貴公子らしく、上品な顔立ちで、アーチ型の眉につぶらな瞳が女みたいだったが、口元は引き締まっていたので賢そうにみえる。さすがに秦軍を二度破った信陵君の孫である。身長は鵬徳は178センチだが、魏無知は175センチくらいであろうか。


 鵬徳がカメラの前でピースをすると、魏無知は顔がこわばった。銅鏡で自分の顔をみたことはあるが、こんなに鮮明に自分の顔が映るこの物体はなんであろう。そして、一介の料理人が劉邦が天下人になるという。この玉は未来予言ができる玉で、それと引き換えに鵬徳が記憶を失ったというのが、魏無知の結論だった。


 鵬徳はスマホの日時をみると、208年6月28日となっていた。マップ機能で劉邦を検索すると、城陽に向かっているようだ。臨済から300キロとある。魏無知には馬があるが、自分の分の馬まではないだろう。それに、馬があっても乗れなかった。


「300キロか、何日かかるんだ・・・」


 鵬徳は独り言を言い、ため息をついていると、魏無知と魏無知の従者らしきものは目を合わせて、首を横に振っていた。


「お前も疲れているだろう。今夜はここで寝て、明日劉邦軍へ向かおう」


 魏無知はそう言うと、煎り大豆と粟酒を鵬徳に与えた。


 鵬徳は礼を言い、お辞儀をすると、もしや、魏無知が探している石を持っているかもしれないと思った。魏無知は信陵君の孫だし、持っていても不思議ではない。


「無知様、こんなことをきくのは失礼かもしれませんが、この石と同じものをお持ちではありませんか?」


 鵬徳は巾着から自分の黄色の石を魏無知にみせた。


「これは、琥珀か?珍しいものだな。勾玉になっている。わしは持ってない。魏の宝は秦が根こそぎもっていったからなぁ」


 魏無知は黄色の勾玉の石を珍しそうにみたが、本当に知らないようである。


「もし、劉邦様に謁見なさるとき、同じ質問を劉邦様にして頂きたいのです」


 鵬徳は深々と土下座をして頼み込んだ。


「なぜだ?なぜこの石を劉邦がもっていると思うのか?」


 鵬徳は自分が未来から来たと言っても信用されないだろうと思ったので、適当に理由を探した。


「この石と同じ石を持つものは仁徳の心を持ち、天下を安んじることができるのです。私は生死のはざまを彷徨っている間に、天から仁徳の心の主を探すように命じられたのです。劉邦様が持っているかどうか、確証はございませんが、考えられる一人なのです」


「ふむ。わかった。目通りがかなったらきいてみよう。そして、その仁徳の心の主は懐王や項梁ではないのか」


 鵬徳はそうきかれて、困った。自分は劉邦が持っていると思っているが、だれが持っているかはわからないのである。


「懐王かもしれませんし、項梁かもしれません。ただ、今のところ有力なのは劉邦様なのです」


 鵬徳は顔を上げず、土下座のままで答えた。


「そうか、わかった。目通りがかなったら其方も一緒に来るがよい。そのほうが納得するであろう」


 鵬徳は顔を上げ、礼を言うと、魏無知は従者と共に納屋から出て行った。魏無知は民家に世話になっているようである。煎り大豆と粟酒を口にすると、ほのかに酔った。


 スマホのグループチャットを起動すると、ラオス人のマイヒョンが、メッセージを残してあった。


「伏羲と女媧の伝説は本当だったんだな。俺は劉邦の時代に転生した」と今は鵬徳と呼ばれている彬彬はメッセージを書き込み、明日からの旅に備えて寝た。


 鵬徳は黄色の光る玉をくわえた龍に乗って、金塊の山に落ち、金塊に落ちると龍は黄色の光る玉を鵬徳に与えた。

「お前は未来を知っている。この世界の住人になれば、富が得られるぞ」

 龍は鵬徳に告げると、天に飛翔していったという夢をみた。


 それから、時間の経過が不思議だった。気がついたら、劉邦に目通りしていたのだ。劉邦は史書で書かれているように、感じのよい中年男性で、美男子とはいえないが、気さくで魏無知と話すときは親友のように話しかける。


「ああ、魏無知殿がわしの配下になってくれるのは嬉しい。わしは信陵君を心から敬服しておる。でも、その石は知らん。わしは下賤の生まれだからなぁ」






 

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