序章ー7 五色石の仮想世界へ

 5人は約束の時間にネットカフェ、メテオリテの休憩室に集まった。

 彩は他の4人のためにコーヒーをいれてから、女店主を呼びに行った。


 4人は彩が席を外すと、それぞれ自己紹介したり、口々に不安を漏らした。


「よくいらっしゃいましたね」


 女店主は休憩室に入ると、4人を慈愛に満ちた目で見回した。

 女店主は奥の席に座り、彩は手前の空いている席に座った。


「不安があるだろうから、少しこの旅行について説明しましょう」


 女店主は5人、一人一人と目を合わせ、静かな口調で説明し始めた。


「この計画は須菩提祖師とその弟子によるものである。ラマッシュという欲望の神がこの計画を邪魔しようとしていて、危険が伴い、生きてこの世界に帰れるかは能力によるもので、保証しない。一泊二日となっているが、仮想世界では長い時間滞在していると感じ、ミッションが完了して、この世界に戻るときの日付が2月4日ということになる。仮想世界でのミッションは自分の持っている石と同じ石を持っているものを探し出し、その石と自分の石を一回触れ合わせて光らせてから、その石の感情に心から共感して、支給するスマホでメテオリテ宛にメールを送信し、それがその石の感じているワードならば、ミッションは終了、生きて帰れる。ワードをつぶやくと、石は光るが、光らない言葉をあてずっぽうに次々につぶやくと、石が怒って爆発するから、仮想世界での100時間のうちに2回以上つぶやかないこと。メールを送信するときに間違ったワードを書き込むと、生きて帰れることはないから、慎重に送信するように。支給されるスマホと金塊は石の仮想世界でも使うことができる。スマホで石の仮想世界のことを検索したり、今いる5人で情報交換することができる」


「石に感情なんてあるのか?」


 段彬彬は説明を聞いている間に疑問をはさんだ。


 女店主はその質問に答えるべく、説明を再開した。


「石にも感情はある。私は今の姿になる前は隕石だったのだ。須菩提祖師に拾われ、修行を重ねて今の私がある。あなた方も旅行の試練に耐えることができれば、石の感情に共感することができるようになるだろう。自分以外のものの感情に共感して、理解して、尊重することは人類のもっている最大の徳なのだ。このワードはヒントにもなる。あなた方がこのミッションに参加しないと、人類は悲惨な末路になるだろう。どうか、須菩提祖師の計画に協力して欲しい。謝礼金の百万円は必ず払う」


 5人は顔を見合わせて、うなづいた。


「やります」


 彩は代表して答えた。


「では、今からスマホの使い方を説明する。まぁ、今、あなた方がもっているスマホの使い方と同じだ。それぞれ持っている石をスマホの上に10秒置いておけば、仮想世界での一日使える分の充電ができる。でも、SNSやアプリは使えない。使えるのはメテオリテ宛のメール送信と、検索機能、マップ機能、このメンバーでのグループチャットだ。グループチャットには私も参加している。ずっと監視しているわけではないので、すぐに返事が来ると期待はするな。さぁ、石を出してくれないか。5人の石が触れ合えば、石の仮想世界に旅行することができる」


 5人は石を出してから、グループチャットの登録をした、女店主はメテオリテとニックネームを登録し、5人はファーストネームを登録することにした。


 石を触れ合わせると、虹色の光が休憩室を覆い、5人の体は消えた。


 女店主、メテオリテは休憩室に一人残った。


 5人の体が消えたことを確認したメテオリテは書棚から、世界の神話という本を取り出し、奥のスイッチを押すと、書棚は横にスライドし、暗闇に包まれたドアが現れた。そのドアの前に立ち、手をかざすと、ドアが開くと、プラネタリウムのような星に覆われたドームが現れ、そこには大小さまざまな隕石が浮遊していた。メテオリテは中央に浮遊している透明な隕石の前に立った。


 その透明な隕石に手をかざすと、鳳凰と白蛇が現れた。


「勇者になるための試練の旅に出発したのだな。我等も須菩提祖師の計画に賛同することに決めたのだ。龍と獅子はラマッシュについたようだ」


 鳳凰はそう言うと翼を広げ、その翼は七色に光り、火の粉が吹いた。


「うむ。我等も悩んだのだが、今さら人間を見捨てることはできないと決断したのだ。ラマッシュも欲望の神になる前は人間に味方して、フンババ退治をしたこともあったのに。人間が大量破壊兵器を使ったことと、環境破壊をすることに腹をたてたようだ。我等にもラマッシュにつくように龍から呼びかけがあったのだが、須菩提祖師の計画にのることに決めた。其方にも、ラマッシュから呼びかけがあったはずだが・・・」


 白蛇はそう言うとメテオリテの首にめがけてかみつこうとした。その体は七色に光った。


 メテオリテは七色に光った白蛇をかわし、後ろに下がった。


「私をスパイだと思っているのでしょうか。確かに私は隕石でラマッシュの意向に賛同するべき立場です。しかし、私はこういうところで言い争いすることにかけては貴方には及びませんが、須菩提祖師とアヌ様を守ることでは、貴方は私に及ばない」


 メテオリテは目を閉じて、静かな口調で言い返した。


「よく言った。これからも監視しているからな。我等もあの5人がラマッシュの配下にならないように見張っているから、そのつもりで」


 鳳凰は言い終わると、翼を閉じて透明な隕石の中に入り、白蛇も後から入った。


 透明な隕石の左にある黒い隕石の前にメテオリテは立ち、手をかざした。


 すると、黒い隕石から金色の獅子と金龍が現れた。


「よく言った。お前はスパイだ。そのことを忘れるなよ。もうじき、人間は人工知能を開発して成功するだろう。それが、我等の計画よ。ラマッシュ様は欲望の神ではない。物質の神だ。アヌは死ぬべき存在なのだ。人類が滅亡すれば、アヌが死んでラマッシュ様が次代の天帝になる」


 獅子と龍はほくそ笑みながら、メテオリテにフゥっと息を吐いた。


 メテオリテはその息の圧力によろめいたが、なんとかもちこたえた。


「わかっております。私はラマッシュ様の下僕であることは認識しております。どうか、お疑いなきよう」


 メテオリテは目を合わせず、下を向きながら答えた。


「わかっておる。そちのことはラマッシュ様に報告しておく。あの5人じゃ、我等が邪魔しなくても、計画を実行できるはずがない。アハハハ」


 獅子と龍は高笑いしながら、黒い隕石に入っていった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る