序章ー6 タイから来た留学生

 サラワット・チワアリーは悲嘆に暮れていた。父親が交通事故を起こし、多額の賠償金の支払いを余儀なくされ、支払わないと刑務所行きになるということで、次年度の大学の学費の送金ができないので、アルバイトを探すか、タイに帰ってこいと言われた。タイに帰っても良い仕事があるわけではなく、ここは、がんばって、アルバイト先をみつけようと心に決め、アルバイト先がみつかるように仏様に祈ろうと浅草寺に来た。今戸神社はタイ人の間でも猫寺としてSNSで広まっていたので、今戸神社のほうに足を延ばした。今戸神社の辺りを歩いていると。ネットカフェ、メテオリテの看板が目にとまった。看板には御利益盛沢山とある。心に響いたので、ここでアルバイト先を探そうと思い、入ってみることにした。


 数日経っても、良いアルバイト先をみつけることはできなかったので、あきらめて会計を済ませようとすると、自分と同じくらいの年ごろの新人の女の子に声をかけられた。


「これと同じ形の他の色の石をお持ちではありませんか?」


 白井という名札を胸につけている、その女の子のネックレスにつけられている勾玉の白い石をみた。サラワットはその石を持っていた。父からもらったものである。サラワットは財布にとりつけていたので、自分の青い石をみせた。


「私のは青色だけど、これですか?」


 白井はネックレスを外して、自分の石をサラワットの石に触れさせると、虹色に光った。


「この石です。別室で少しお話させて下さい。お時間はありますか?」


 白井は軽く自己紹介して、休憩室にサラワットを招き寄せた。サラワットは日本で自分と同じ石を持っている人と巡り合い、気分が躍った。父からきいた不思議な石の伝説は父の冗談だと思っていた。その伝説は、その石はタイのスコタイ王朝の時代のもので、父の先祖は王族に仕えていて、下賜されたものだという。なぜ、白井は自分と同じ形の石を持ち、その石と触れ合うことで虹色に光るのか。虹色に光ったのをみたことがないし、父からそのような話をきいたこともなかった。


「今、お困りではありませんか?今から私の話すことに協力して頂ければ、店主から百万円謝礼金をお支払いします」


 サラワットはその話に乗ることにした。自分と同じ石を持っているという親近感と

学費の足しにしたかった。


「もし百万円くれるのであれば、協力します」


「この契約書にサインして、2月3日の19時にここへ集合してください。ミッションが終了すれば、百万円支払います」


 サラワットは契約書を読んで覚悟を決めてサインし、2月3日に来ることを約束した。




◇  ◇  ◇




 店主は5枚の契約書を持って、地下にある部屋に入っていった。


「須菩提祖師様、勇者5名が決まりました」


 須菩提祖師は契約書を受け取り、水晶玉にその契約書を触れさせた。すると、5名の等身大の像が現れた。


「この者たちか。石の仮想世界で生きていけるか、見守る事にしよう。ラマッシュたちが、我の計画にきづいたようだ。なにかしら、邪魔をして、この5人は苦労するにちがいない。よい手だてを弟子たちに議論させてみよう。アヌ様の力が衰え、人類はラマッシュの計画通り人工知能にとってかわられ、有機生命あふれる地球からラマッシュ支配下の人工知能が制御する物質主体の惑星への分岐点になる。お前は隕石だったから、それでもいいかもしれないが、我は人類だった。人工知能が新たな思想の転換を生み出すことになることをアヌ様は望まれているが、我は人類を救いたいのだ。お前は我を裏切って、ラマッシュに仕えるか」


 須菩提祖師は慈愛に満ちた眼差しを店主に向けた。


「滅相もありません。私は須菩提祖師様に救われました。孤独だった隕石に生きる喜びを伝えてくれたのは須菩提祖師様です。確かに、邪心の神、ラマッシュの手先が私の店にきたことはありますが、裏切ることは考えておりません」


 店主は須菩提祖師が邪心の神と自分に接点があることを知っていたのに、冷や汗をかいた。隕石であるが、現在は人であり、生理現象があるのだった。隕石のときは感じなかったものだ。


 




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