序章ー5 韓国から来た起業家

 許・勇俊(ホ・ヨンジュン)は自分の不甲斐なさにやるせなかった。韓国から親族に頭を下げて借金をして、日本で起業すると豪語して日本へ来たが、スリにあってしまったのだ。警察に行っても、届けられていなかった。クレジットカードは無事だったので、帰りの飛行機はなんとかなるが、どう、親族に説明すればいいか悩み、いっそのこと、日本で就職すればいいじゃないかという結論に至った。ホテル代も節約することにして、浅草の辺りをうろついていると、ネットカフェ、メテオリテの看板をみつけた。御利益盛沢山とあり、シャワーもついていると書かれてあるので、ここに泊まり込むことにした。


 数日経っても、自分を受け入れてくれそうな会社を探すことはできなかった。あきらめて、韓国へ帰ろうと思い、会計をすませようとすると、自分と同じくらいの年ごろの新人の女の子に声をかけられた。


「これと同じ形の他の色の石をお持ちではありませんか?」


 白井という名札を胸につけている、その女の子のネックレスにつけられている勾玉の白い石をみた。勇俊はその石を持っていた。母からもらったものである。勇俊は石をパスポート袋にとりつけていたので、自分の赤い色の石をみせた。


「この石か?」


 白井はネックレスを外して、自分の石を勇俊の石に触れさせると、虹色に光った。


「この石です。別室で少しお話させて下さい。お時間はありますか?」


 白井は軽く自己紹介して、休憩室に招き寄せた。勇俊は日本で自分と同じ石を持っている人と巡り合い、運命を感じた。母からきいた不思議な石の伝説が嘘ではなかったのだ。その石は昔、新羅の王族に仕えていた勇俊の母の先祖が王族から下賜されたものという伝説である。なぜ、白井は自分と同じ形の石を持ち、その石と触れ合うことで虹色に光るのか。虹色に光ったのをみたことがないし、母からそのような話をきいたこともなかった。


「今、お困りではありませんか?今から私の話すことに協力して頂ければ、店主から百万円謝礼金をお支払いします」


 勇俊はその話に乗ることにした。自分と同じ石を持っているという親近感と起業の資金にしようとしたのだ。


「百万円もらえるのであれば、協力しよう。何をすればいいのか」


「この契約書にサインして、2月3日の19時にここへ集合してください。ミッションが終了すれば、百万円支払います」


 勇俊は契約書を読んで覚悟を決めてサインし、2月4日までここに滞在すると約束した。


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