序章ー4 中国から来た調理人
段・彬彬は途方に暮れていた。調理人として中国から来たものの、夢であるレストラン経営の準備金を貯金できる余裕がなかった。このままでは、永久に雇われ人として、社会の底辺に住むことになる。転職を考え、とりあえず神頼みをしに浅草に来た。祈願は自分のレストランを持つことである。浅草寺から今戸神社の辺りを、転職先を求めて歩いていると、ネットカフェ、メテオリテがあった。看板には御利益盛沢山とある。運命を感じて、ここで転職先を探そうと思い、入ってみることにした。
数日経っても、良い転職先をみつけることはできなかったので、あきらめて会計を済ませようとすると、自分と同じくらいの年ごろの新人の女の子に声をかけられた。
「これと同じ形の他の色の石をお持ちではありませんか?」
白井という名札を胸につけている、その女の子のネックレスにつけられている勾玉の白い石をみた。彬彬はその石を持っていた。祖母からもらったものである。彬彬は石をスマホにとりつけていたので、自分の黄色の石をみせた。
「私が持っているのは、黄色だけど、これか?」
白井はネックレスを外して、自分の石を彬彬の石に触れさせると、虹色に光った。
「この石です。別室で少しお話させて下さい。お時間はありますか?」
白井は軽く自己紹介して、休憩室に彬彬を招き寄せた。彬彬は日本で自分と同じ石を持っている人と巡り合い、気分が舞い上がった。祖母からきいた不思議な石の伝説は本当だったのかと思った。その伝説は、その石は禹王の墓から取り出されたもので、祖母の先祖の親族は魏の王族に仕えていて、紆余曲折があり、祖母に受け継がれていったのである。なぜ、白井は自分と同じ形の石を持ち、その石と触れ合うことで虹色に光るのか。虹色に光ったのをみたことがないし、祖母からそのような話をきいたこともなかった。
「今、お困りではありませんか?今から私の話すことに協力して頂ければ、店主から百万円謝礼金をお支払いします」
彬彬はその話に乗ることにした。自分と同じ石を持っているという親近感と
開業資金の足しにしたかった。
「百万円頂けるのであれば、協力しましょう」
「この契約書にサインして、2月3日の19時にここへ集合してください。ミッションが終了すれば、百万円支払います」
彬彬は契約書を読んで覚悟を決めてサインし、2月3日に来ることを約束した。
◇ ◇ ◇
ネットカフェ、メテオリテは今戸神社の近辺にある3階建てのビルだった。店主は契約書を持って、地下にある部屋に入っていった。
「須菩提祖師様、契約書が3枚届きました」
須菩提祖師様と呼ばれた仙人は老人ではなく、目元の涼やかな美男子で、白い袈裟を身に着けていた。
「3人か、アヌ様の怒りを解くことができるであろうか」
須菩提祖師は静かな声で店主にきいた。
「わかりません。邪心の神もこのまま黙ってみているわけではないでしょう」
「そうだな。でも、石の力は弱まり、私の力も以前より落ちている。人々の欲望の渦が石の力を弱まらせているのだ。その昔、まだ、私が人間として生まれる前に、アヌ様は人類に石を授けたが、その子孫たちはかくも落ちぶれている。現状を打破するには、これしかあるまい。この計画が失敗すれば、私もアヌ様の怒りに触れ、消滅するだろう」
須菩提祖師は軽く目を閉じて、しばし考え込みながら答えた。
「その話は人間たちに伝えた方がよろしいですか?」
「いや、死亡する恐れがある危険なことというだけに留めておこう。スマホを持たせることで、危機から救えるかもしれないし、勝ち目がないことを知らせると、勝てる戦も勝てなくなってしまうものだ」
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