最終話 朝起きたら幼馴染が隣にいる
高校一年生の夏を忘れる事は無いだろう。あの夏に僕達の関係は一変した。それは人生を変えるかもしれない選択の連続で、僕は必ずしも正解ばかりを選び取ったわけでは無いと思う。時には失敗をし、成功をし、失敗を成功へと捻じ曲げもした。
大学生になったいま改めて思う。僕は天ヶ崎舞羽と出会う事ができて幸せだった。彼女の見せる表情の一つ一つが、彼女の起こす奇想天外な事件の一つ一つが、僕にとっては宝石のように輝いていて、特別だった。
「わっ、これが新しいお家?」
「家っていうかマンションだな。オートロック付きの良い所だ。これでお前のピッキングを心配する必要がなくなるわけだ」
「これから一緒に住むんだからする必要もないよーだっ」
「うん。これからは2人で暮らす事になるんだ。色々買いそろえないといけないな」
「えへへ……。私、新しい恋できてるかな」
「知らん」
「えー、ちょっとーー!」
特別な日々はこれからも続く。高校を卒業した僕達は同じ大学に入り、同じマンションで暮らす事になった。2人だけの生活が始まるのだ。きっと今まで以上に大変な事もあるだろう。彼女は奇想天外なダメ人間だから想定外のトラブルを起こすかもしれない。
でも、それでいいと思う。こうして思い返してみればほとんどが笑い話である。
彼女との特別な日々が思い出になる。今日を生きる僕達に力をくれる。予測がつかない彼女との日々が、僕にとっての幸せな日々になる。
「というか、新しい恋ってなんだ。いつまで新しくいるつもりだ?」
「新しい恋は新しい恋だよ。こう、ゆうの隣に立って手を繋いで歩ける恋だよ」
「だったら、これは新しい恋じゃないのか?」
「隣に立って、手を繋いで、歩いてる………。あぅ、してるね。ってそういう事じゃないーーーー!」
「難しいな。けど、少なくとも迷惑をかけなくなっただけ上等だろう」
「むぅ……分かってて言ってる……。だったらいっぱい甘えてやるもんっ」
「買い物中はやめろよ?」
朝起きたら幼馴染が隣にいる。当たり前だったその日々があの夏に当たり前じゃなくなって、いま、また日常になろうとしている。
もっとも、それを正確に言うならば幼馴染が隣にいるというのは間違いである。
朝起きたら恋人が隣にいる。というのが正しいであろう。
僕達の関係はたしかに変わった。
ただ、それで舞羽との日常が変わるのかと言われれば、僕には答える事ができないのだけれど。
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