犬の骨 44

大学生時代、同じサークルにKという男がいた。

気さくで明るく、誰にでも優しい男だった。

ある飲み会の際、彼と二人で話す機会があった。

私が怪談等が好きだと知った彼は

「俺、心霊写真みたいな写真持ってるんだ。見る?」

と聞いてきた。


私が見せて見せて、と言うと、スマホを操作し「これだよ」と渡してきた。

スマホの画面には綺麗な夕焼けの写真が表示されていた。

大きな通りの歩道からオレンジ色の夕焼けを撮っており、道路や周りの建物は夕闇で暗く写っている。


どこに霊が映っているの?と聞くとKは「これこれ」と指さした。

電柱の影に人影があった。

これが幽霊なの?と聞くと、Kは

「幽霊と言うか…ちょっと説明させてくれ」

と言った。


Kは物心ついた頃から“女の子”が視界のどこかに見えていたという。

それは数十メートル先の曲がり角の向こうに、電柱の影に、物陰に見きれるように、時々見えるという。

はっきり見ようとすると姿が消えてしまう。

それでもふと気づくと視界のどこかに現れるという。

5歳か6歳程度の女の子だという。

黒髪のストレートで、浅黒い肌で、白い服とスカートを着ている。

海外に旅行しても見えるという。

室内では見えないが、それは狭い室内だから見えないだけで、数十メートル先の外にいるのかもしれないと言っていた。

それが他の人間には見えない存在だという事は子どもの頃からわかっていた。

自分にしか見えない幻覚のようなモノだと思っていたという。


「それでこの前、夕焼けが綺麗だったんで写真を撮ったのよ。何枚か撮った時、視界の隅にその女の子がいたのが見えたの。気づいたら消えちゃったのだけど、もしかしてと思って写真を見てみたら写ってたのよ!それがこの写真なんだよ。この女の子がずっと俺が見えてる女の子なんだ!」


Kはそう言って写真を指差していたが、私は生返事しかできなかった。


Kが指差すそこに写っている人影は、とても5、6歳の少女には見えなかった。

身長は150㎝は超えてるように見え、白い服とスカートは着ているが、髪の毛はボサボサで、顔は白粉でも塗ったかのように真っ白で、それは子どもの顔ではなく、むしろ老婆のように見えた。

その女がじっと写真の向こうからこちらを無表情で見つめていた。


私はKに「これは女の子に見えない」と伝える事ができなかった。

Kと私で見えているモノが違う。

この事を伝えた時に、Kに、私に何が起きるのだろうか。

写真に写るこの存在はどうするのだろうか。

それを考えると気味が悪く、何も言えなかった。

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犬の骨 @kimif

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