第34話 集合



 翌朝、早朝四時に勤務隊舎に集まった俺たちは、集合場所へと向かうため車を走らせた。

 敵地と予測される場所は、海沿いにある倉庫。


 あまりにド定番というか、以前この辺りは全てチェックしたはずなんだがなぁ。どうやら、彼らは拠点を転々としているようだ。だからこそ、いままで隠し通してこれたのかもしれないが。

 もしくは、侵略者を呼び出したように、人間も霊具の力で移動が可能なのかもしれないな。


 俺達は敵に勘付かれないよう、いつもの高機動車ではなく一般車両を使用している。

 運転は篝火さん、助手席には柿崎くんが座り、後部座席には俺と双葉さんが座っていた。

 ちなみに、柿崎くんは現在ドクロのお面、そして黒いマントを羽織っている。


「シュールだ……」


 傍からこの格好をしている人を見ることはないし、そして車にシートベルトを付けて乗っているというのもまた面白い。対向車が来たらびっくりするだろうなぁ。


「笑わないでくれるかな? 僕だって命令じゃなきゃこんな格好したくなかったよ」


「おう、それは俺の戦闘着をバカにしてんのか?」


 売られたケンカを買おうとしたら、双葉さんに「あなたはもう少し緊張感をもったほうがいいと思います」と怒られてしまった。はい、すんません。


「でもあの場に柿崎くんがいて良かったよね」


 赤信号に引っかかったところで、篝火さんがバックミラーで俺を見ながらニコニコ顔で言う。

 そう……こちら側の予測では、現在あちらさんでは『柿崎くんが死神』という図式が成り立っていると予測している。


 俺が死神という可能性や、双葉さんが死神という可能性も捨てきれないだろうが、あのイレギュラー発生地点にいて、一番不自然なのは柿崎くんだから。

 まぁ『勘違いしてくれたらラッキー』程度のものなので、そこまで重要な作戦でもないが。


 柿崎くんは嫌々ながらも、重要な役割だと思っているのか張り切っている様子なので、黙っておこう。

 それにしても、みんなこの時間に起きておいてよく眠たくないよな。

 俺はさっきからあくびが止まらないぞ。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 目的地から五キロほど離れた協会の所有する地下駐車場で、他の霊装士たちと合流する。

 見知ったメンバーばかりなので、俺としてはかなり気が楽な空間だ。


「おぉ! ついに坊主にも同年代の仲間ができたのか! 良かったなぁ!」


 そう言いながら死神の格好をした柿崎くんの肩を叩く、三島さん。彼はSランクの霊装士で、四十手前のおっさんである。かなりフレンドリーで、面倒見がいい人なのだけど……とりあえずそいつは俺じゃねぇ。


「三島さん、俺はこっちだぞ」


「――っ!? なにもんだてめぇ!」


 片手を上げて三島さんの名前を呼んだが、睨まれてしまった。俺は変装してねぇよ。


「いや俺が百瀬で、そっちは影武者みたいなもんだよ」


「あ? 坊主二人――だと?」


「ま、紛らわしくてすみません。水霧双葉さんの護衛を務めております、柿崎正太郎です」


 柿崎くんがお面を取り、丁寧な謝罪の言葉を口にする。というか正太郎って名前だったのね君。

 彼も普段は堂々としているが、Sランク霊装士の前ではさすがに緊張するらしい。なんで俺の前では緊張しないんだよ。緊張されても困るけどさ!


「そうならそうと言ってくれよなぁ! 勘違いしちまったじゃねぇか! それで、今回はこいつらも参加するって聞いているが、大丈夫なのか? これは訓練じゃないぞ?」


 三島さんがぼりぼりと頭を掻きながら聞いてくる。

 そしてその返事は、こちらに歩み寄ってきた副司令官が代わりにしてくれた。


「経験積ませるためにも、彼らには場慣れしてほしいので」


「はー、なるほどな。まぁ坊主がいるから万が一ってこともないだろうし、問題ないか」


 三島さんも案外あっさり納得していた。

 彼は他のSランク霊装士たちを束ねる隊長の役割を担っているから、彼が納得した以上、他のメンバーから反対の声が上がることはないだろう。


 というか、けっこうこの人たちその辺おおざっぱだからな。

 俺が敵地に特攻している姿を何度も見てきたからかもしれない。何度か彼らと一緒に組織の殲滅をしてきたことがあるが、ほぼほぼ俺しか戦ってなかったからな。


 俺たちが暢気にお喋りをしている間に、今回の作戦の参加者たちも続々と集まってくる。俺たちを除くと、総勢二十名ほどだ。

 全員が集まったところで、水霧副司令官が皆の前に立ってから口を開く。


「今回の作戦は、イレギュラー発生を引き起こしていると思われる集団の確保です。敵の人数は、五十から百と見ています。敵がこちらに要求に従わず攻撃の姿勢を見せたら、即座に反撃してください。ではまずA班――」


 水霧副司令官は、その場に集まった霊装士とオペレーターにそれぞれ指示を出していく。篝火さんもオペレーター班の一部に組み込まれているので、ピシリと敬礼をきめていた。


「最後に、柿崎くん、百瀬くん、そして双葉」


「「はっ」」


「敵は霊具によって逃げる可能性があります。そしてその親玉を潰さない限り、永遠に侵略者を呼び出し続ける可能性もあり得ます。速やかに敵のボスを排除してください」


 ま、長々と色んな話があったけど――結局いつも通りだな。



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