第33話 それは間違っている



 就業間際になって、水霧副司令官が部隊室にやってきた。

 こちとら退勤する気満々で扉の前で待機していたというのに、いったいなんのようだ。柿崎くんに用事ということにして俺は帰宅させてもらってもよいだろうか。


「百瀬くんも残っていただけますか? 妹さんにも関わる話ですよ?」


「もはや脅しに使ってませんかねぇ?」


 がっくりと肩を落としてから副司令官を睨む。彼女はニコリと笑ってから俺を手でソファに座るように促した。


「ふ、副司令官どうされたんですか?」


 篝火さんが、ソファから立ち上がって問いかける。

 双葉さんも隣で立ち上がっているが、彼女も事情はわからないようで困惑した面持ちをしていた。


 二階で本を読んでいた柿崎くんもなんだなんだと言った様子で一階へ降りてくる。


「敵の拠点らしき場所を発見しました」


 全員が中央のテーブルに集合したところで、水霧副司令官が淡々とした口調で言う。


「敵――というのは、イレギュラー発生のやつですか?」


 俺がそう聞くと、彼女は首を縦に振る。

 ……いや、それは大変喜ばしいことだし、妹の安全に関わる問題だからいいのだけど、なんでこのメンバーがいるところでそんな話をするんだ? 俺一人に伝われば言い話だと思うんだが。


「では今から行きますか?」


「いえ、念には念を入れてこちらも準備を整えますので、明日の早朝に叩きます。ですから、残るE-403部隊のメンバーは、明日休日とします」


 あぁ、それでメンバーがいる前で話をしたのか。

 俺が休むということは死神としての活動だと皆わかってくれているし、俺一人に伝えようが、全員の前で話そうが、結果的にはあまりかわりが無いと。


 詳しく話しているからには、副司令官は彼女たちのことを信頼しているのだろう。

 もしくは、篝火さんと柿崎くんのことを裏で徹底的に調べ上げたかのどちらかだと思うが――彼女の性格からして、後者だろうな。


「というわけで、すまんが明日は休みをもらうから」


 メンバーの三人に向けて言う。すると、真っ先に双葉さんが声を上げた。


「私も行きます」


 いやなんでだよ。双葉さんはなにも関係ないだろうに。


「私も、霊具を展開すれば死神とまではいいませんが、そこそこ戦えます。人間相手ならば、侵略者相手よりも私の霊具は有効に働くのではないのですか?」


「いやそりゃそうかもしれないけどさ……そもそも双葉さんが行く必要はないだろ? 俺一人で十分なんだから」


「では、これからもたったひとりで戦い続けるつもりですか?」


 必要とあらば、そのつもりだよ。

 そうならないように、他の人には育ってほしいのだけども。

 そうなってくれたほうが、妹は喜ぶし。


「副司令官からもなんか言ってやってくださいよ。おたくの妹さんが暴走してるみたいでうすけど?」


 ため息交じりに言うと、双葉さんから「暴走ではありません!」と抗議の声が挙がるが、いったん無視。


「なぜ同行したいのですか?」


「霊装士として、テロ組織は見過ごせません」


「理由が弱いです。却下」


 えぇ……いまので百パーセントの回答じゃないのか?

 満点の回答を出したところで、付いてきてほしくはないんだけどさ。しかし今後のことを考えれば、こういう仕事に慣れておいてもらったほうがいいのか? まだ早い気はするけど……俺が傍にいれば問題ないといえば問題ないかもしれないが。


「私も行ってはダメですか? サポートしかできませんが、役に立ちます」


「篝火さんまで何を言ってるんだよ……」


「今後もこういう仕事はあるんだよね? 私は百瀬くんの助けになりたいから、これから慣れていくためにも参加したいな」


 ふんすと張り切った様子で、篝火さんが言う。

 彼女は相変わらず俺への好感度が高いようで、こういう発言に躊躇いがないよなぁ。


「副司令官。先ほど『準備をする』と言っていましたが、百瀬さんのことを知る他のオペレーターも参加するということですよね? そこに私も混ぜて貰えませんか?」


「いいでしょう」


「――っ! ありがとうございます!」


「そ、そんな……」


 篝火さんがオッケーを貰い、双葉さんは茫然とした表情を浮かべる。

 というか、副司令官は俺に確認ぐらいしろや――と思ったけど、よくよく考えれば他の霊装士やオペレーターも参加しているから、あちらに加わるのであれば俺にはあまり関係ないのか。


「あなたはなぜ、同行したいのですか」


 もう一度、副司令官が双葉さんに問う。

 双葉さんは唇をかみしめたのち、俺の顔をちらりと見た。そして再度、副司令官へ目を向ける。


「――百瀬さんが、百瀬さんばかりが頑張るのは、間違っていると思います。私は……私のこの力は、人々を救うと同時に、百瀬さんの負担を一部肩代わりできます!」


 お、おう……。

 いったいいつの間にそんなことを考えるようになったんだ双葉さんは。


「(ツンデレのデレが来たようだね)」


 俺の耳元で、ぼそりと柿崎くんが言う。たしかに、これはデレと言っていいのかもしれない。


「いいでしょう。では、双葉の護衛である柿崎くんも、よろしくお願いします」


「了解しました」


 なんだかんだ、E-403部隊は全員参加することになったようだ。

 彼らに仕事があるかどうかは、相手の実力と人数次第かな?




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