第32話 新生E-403部隊



 事件があった翌日ということで、この日は大人しくすることにした。

 というのも、双葉さんと篝火さん、それから柿崎くんは、昨日の時点で副司令官から呼び出しを受けたらしく、そこで俺のことについての口止めを要求されたらしい。


 そして、今日はそのことに付いて詳しく話をするとのこと。

 俺は彼女たちの話が終わるまでお留守番である。帰りたい。

 葵は葵で、高校がどこかの誰かさんにより破壊されたせいで、近くの廃校になった場所を整備して使うようになるらしいが、しばらくは休校となるようだ。


 本人は「しばらくは遊べる!」と喜んでいたけど、お兄ちゃんは申し訳ない気持ちでいっぱいです。なので、水霧副司令官に「廃校のリフォームは全力でお願いします」と頼んでおいた。必要とあらば札束ビンタもできちゃうぞ。


 一人きりの部隊室で、ソファでだらけて、のんびりコーヒーを飲むこと一時間――ようやく二人が返ってきた。


 なぜか二名ほど余計にくっついてきている。

 ソファのアームレストに首を預けて寝転がっていた状態から身体を起こし、首を傾げる。


「なんで二人まで来ているんですか?」


 双葉さんと篝火さんの他、柿崎くんと副司令官も一緒に来ていた。


「柿崎くんもこの部隊に加わることになりましたので、その説明に参りました」


 副司令官がそう言うと、隣の柿崎くんが俺に向けて小さく手を振る。

 えぇ……いや別にいいんだけど、なんでまた?

 そういえば、柿崎くんってEランク霊装士とは言えないような実力だったよな? そのことも関係しているのだろうか?


「彼はもともと優良な人材を護衛する部署に所属しているのですが、百瀬さんのこともありましたので、私の権限で別部隊からの護衛とさせてもらっていました。ですが、百瀬さんの正体がバレている以上、同じ部隊に所属してしまったほうが柿崎くんの上司も喜びますし、緊急の対応もできますので」


「あー、そういうこと」


 協会内にはそんな人たちがいるって聞いたことがあるなぁ。

 俺には関係ないと思って無視していたけど、まさかこんな身近にいたとは。


「そういうわけで、これからよろしくね百瀬」


 ニコリと笑って、柿崎くんが俺に手を差し出してくる。

 俺はその手を握り返して、同じくニコリと笑った。


 いやーこれは嬉しい誤算だ。


 昨日の戦闘を見た限り、彼自身もAランク相当の実力者なのだろう。

 彼がいれば、俺が手を出さなくてもある程度の敵は処理してくれるだろうし、そして彼自身も優秀な人材であることには違いないので、平和な世の中の為にも、できれば生かしておきたい人材だ。


 霊具が弱いか使えないかで護衛される側にはならなかったのかもしれないが、それでも稀有であることには違いないだろう。


「なんだか、E-403って凄い部隊だよね」


 篝火さんが、顔を引きつらせながら言う。

 言われて見れば――Cランクのイレギュラーをほぼ単独で倒せる人に、現役Aランク霊装士、そしてカミオロシである俺――その三人が、Eランクの部隊に所属しているのである。


「ランク詐欺もいいとこだよな」


 俺がそう言うと、みんな揃って乾いた笑いを漏らしたのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「定時には帰る。妹がいるから」


 水霧副司令官が部屋から出ていったのち、俺たちは会議スペースに集まって今後のことを話し合うことにした。

 とりあえず俺は先手必勝ということで、新入隊員である柿崎くんに向けてそう言った。


「そういえばこの前も、定時を過ぎそうだからって霊玉に霊力入れていましたよね」


 双葉さんがジト目を向けながら言ってくる。

 彼女は俺が死神だとわかってもあまり態度を変えなかった。カミオロシだとわかっていたら、少し違ったのだろうか? いやでも、彼女は敢えて以前の態度を崩さないようにしているようだし、案外カミオロシだとわかってもこのままかもしれないな。


「君はそんなことをやっていたのか……いったい学校で何を学んでいたんだい?」


「俺は留年するような奴なんでね!」


「だがそれは水霧さんと一緒に卒業するためなんだろう?」


「まぁそれはそう」


「そ、そうだったんですか!?」


 うぉ、いきなり叫ばれたからびっくりしてしまった。コーヒー零すところだったじゃないか。

 というか、彼女は姉の副司令官からその辺りの話は聞いていないのか?


「てっきり副司令官から聞いていると思ってたんだけど、知らなかったのか。俺はあの人に双葉さんの護衛を頼まれてるんだよ。まぁあっちの仕事もあったから、どうせ学校にはあまり行けなかったけどさ。本当にサボったのは二、三回かなぁ」


「えぇ……じゃあ百瀬くん、それ以外は全部お仕事してたの? 何十日も休んでたよね?」


「一年目はまだ仕事が色々残ってたからなぁ。それで二年目はあまり休むわけにはいかないから、一年目に仕事を詰め込んでたって感じ」


 俺がそう言うと、柿崎君は「僕も授業のあとに訓練――学生時代は大変だったなぁ」と遠い目をしていた。彼は彼で大変な学生生活を送っていたようだ。なんとなく親近感を覚える。


 うんうんと頷いていると、双葉さんが急に立ち上がった。なぜか顔が赤い。


「べ、べつに百瀬さんに感謝なんてしてあげませんからね!」


「双葉さん、それって世間一般でいう『ツンデレ』が言うセリフだよ?」


 俺も思った。デレといってもクスリと笑ったぐらいしか身に覚えがないけども。


「デレてません!」


「ふむ……これは時間の問題だな」


 適当な事を言ってみた。


「だからデレませんって!」


「賑やかな部隊だねぇ」


「柿崎さんまでやめてください!」


 なにはともあれ。

 楽しい部隊になりそうで、なによりである。

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