第26話 人為的イレギュラー
俺が牽制の霊弾を放ち、双葉さんが接近して切り伏せる。
そんな単調な討伐を終えてから、俺たちは部隊室に戻ってきた。時刻は十七時五十八分。ミッション、コンプリートである。
「そうまでして妹さんと一緒に過ごす時間を削りたくないですか……本当にシスコンなんですね」
「仲良しだよねぇ」
内容としてはあまり変わらないのだけど、発言の仕方によってかなり受け取り手の印象は変わってくる。篝火さんの意見だけ脳内に通達することにしておこう。
それはいいとして、今日はなんだか双葉さんから凄く観察されている気がする。
戦闘中も、侵略者ではなく俺のほうにチラチラと目線を向けていたし、なんだか不気味だ。
「養成校で落ちこぼれを演じていたのも、妹さんのためですか?」
十八時になり、ソファから立ち上がろうとしたところで、双葉さんが唐突にそんな質問を投げかけてくる。
俺は上げかけた腰を下ろして、ため息を吐く。
なんで帰る寸前になってそんなもん聞いてくるんだよ……。
「俺は演じるまでもなく、ろくでもない人間だよ」
「ろくでもないのと落ちこぼれは違います」
嘘を吐かずに誤魔化そうとしたけど、ダメだった。
「だってほら、霊具だって双葉さんみたいに使えないし」
これも本当。
時間遡行を発動して、その地点に再度戻ってくるまでは、【
双葉さんがジッとこちらを見てきたので、俺も肩を竦めながら見返す。
そうしていると、篝火さんが会話に入ってきた。
「昔のことは気にしなくていいと思うな。百瀬くんはEランク霊装士として、模範的な活動をしているでしょ? それじゃダメ?」
「霊力をそそぐのは模範的ではないと思いますが?」
まぁそれはそう。
ただ、双葉さんもある程度俺のことを認めてくれているらしく、『副司令官に報告する』だなんて言い出すことはなかった。一発目の討伐だったら、間違いなくチクられていただろう。
「しかし篝火さんの言う通り、現状で問題は何もありません」
仲直りしたての篝火さんには弱いらしく、双葉さんはすんなりと引き下がった。
ありがとう篝火さん。どんどん借りが増えていっているようで怖いけど、ひとまず感謝しておこう。
双葉さんが俺を少し認めてくれたように、俺も彼女のことを少し認めよう。俺は「もし仮に――」と切り出した。
「俺がおちこぼれ演じていたとするならば、それは妹のためだろうな。前にも言ったように、俺は妹第一の人間なんでね」
そもそも霊装士になっているのだって、元を辿れば妹のため。
俺の行動原理は全て、根っこに妹がいるのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
吾輩はブチ切れそうである。
おっと、あまりにイライラして一人称がおかしなことになってしまった。
というのも、部隊室を離れ、いざ帰らんとした瞬間――水霧副司令官から呼び出しをくらったのだ。無視する気満々だったのだけど、早めに知らせておきたい内容らしく――しかも、俺の妹にも関わるかもしれないということを言われてしまったので、無視するに無視できなくなってしまった。
「それで、どういった要件ですか?」
帰宅を邪魔されたいらだちを前面に出しつつ問いかけると、副司令官はやれやれといった様子で、肩を竦めつつ手の平を上に向けた。
「むしろ話を通しておかないと百瀬くんからお叱りの言葉を頂戴しそうなので、そう怒らないでください」
「電話じゃダメだったんですか?」
「どこに耳があるかわかりませんので」
そう言う意味で言えば、たしかにこの副司令官の部屋は安全なのだろうけど……そんなに極秘の案件なのか? 死神? それともカミオロシ関係か?
「最近、イレギュラーの発生件数が増加しています」
予想していたものとは違うアプローチを受けたので、一瞬面喰らう。
まさか、イレギュラー退治をしろとか言うんじゃないだろうな?
「死神が対応するイレギュラーは危険度SSのみですよ。それ以外まで対応していたら、今の霊装士が育ちませんから」
俺がそう言うと、副司令官は「存じています」と返答。そして言葉を続けた。
「最近のイレギュラー発生には、人為的なものが混じっているというのが、協会本部の見解です」
「……えぇ、つまり、侵略者を故意に呼び出している奴がいるってことですか?」
そんなことできるのか? まだ侵略者自身がそこそこの知能を得て故意にやっていると言われたほうが納得できる。
いやまてよ……霊具の力があれば、もしかしたら可能なのか?
俺が妹から受け継いだ【時渡り】のように、次元に干渉するような霊具があれば……。
「数年前から、イレギュラーが発生と同時に消失することが確認されていました。その原因は不明でしたが、現状を考えると、一つの仮説が浮かびあがります」
俺も頭の中で『アレかもしれないなぁ』と思いながら、副司令官の次句を待つ。
「犯人は、霊具により侵略者をストックしている――それが協会本部の見解です」
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