第25話 仲直り?




 翌日。

 二人とメールや電話でやりとりもしていないので、あの後どうなったかは知らない。だから、部隊室の扉を開くのが少し億劫だった。


 険悪なムードが続いていたら嫌だなぁ。

 はたして双葉さんと篝火さんは、上手く仲直りできたんだろうか。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、ドアノブを捻り、扉を押し開ける。

 すると――、


「「あぁーっ!?」」


 扉を開いた瞬間、そんな叫び声が聞こえてきた。

 視界に移るのは、テーブルを挟んで向かい合って座る部隊の二人。そして、はらはらと宙を舞うトランプたち。

 これはもしや、俺が扉を開けた風圧で、トランプタワーを崩してしまった……?


「扉の風圧で壊れるような場所でやるほうが問題だ!」


 俺は即座に『俺に責任はない!』と宣言する。後手よりも先手が好きなので。


「あはは、別に怒ってないよ百瀬くん。おはよう」


「しっかりと仕事をこなしてくれさえすれば文句は言いません」


 ニコニコと笑う篝火さん、そしてツンして顔を背ける双葉さん。

 どうやら二人は無事仲直り――というか、以前よりも仲が深まったようだ。

 雨降って地固まるってやつかねぇ。じゃあ俺と双葉さんの関係も、いつかマシになる日がくると思っていいのだろうか?


「ひとまず、今日は危険度Eを四体、それから危険度Dを二体駆除しましょう」


「えぇ……張り切りすぎじゃない?」


「昨日サボったツケです」


 そう言われると痛い。

 昨日双葉さんと別れたあとは、本当に家に帰ってスマホで動画見たりしてだらだらしていただけだし。あとは妹と仲良くバラエティ番組を見たりしていた。


 仲良くってところが大事です。

 やる気に満ち溢れている双葉さんに向けてため息を吐いていると、篝火さんが苦笑する。


「あまり無理はしてほしくないけど、今日ぐらいはダメかな?」


 どうやら篝火さんも敵に回ってしまったようだ。彼女は小首をかしげて、ねだるように言った。

 彼女には借りが色々とありそうだからなぁ。

 そろそろ少しぐらい精算しておかないとマズいか。


「やれやれ、わかったよ。だけど、霊力が持ちそうになかったら帰るからな」


「大丈夫です。あなたは私が思っているよりも、霊力を豊富に抱えていそうなので」


 俺じゃなくて双葉さんの心配をしているんだよバカタレ。

さっさと成長してくれ。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 時刻は午後十七時二十分。

 本日最後の霊玉は、危険度Eのものだった。

 危険度Dは序盤のほうに片付けておいたので、残りはノルマのための活動って感じだ。


 今日、双葉さんは霊具を使用することはなかったし、戦闘自体もわりと短期決戦で勝負がついたのでまだ霊力は半分以上残っているはずだ。

 俺の余力は言わずもがな――なんだけど。


「定時が……定時がやってくるぞ」


「これぐらい我慢してください。三十分程度はみ出るぐらい良いじゃないですか」


「俺知ってるぞ。こういうのをサービス残業って言うんだ」


 霊装士に残業代は出ない。

 死神としての活動でお金はたんまりと貰っているから、お金は正直どうでもいいのだけど、妹と! 過ごす! 時間が! 減ってしまう!


 いまから一時間なにもせず待機して、侵略者を瞬殺して、勤務隊舎に車を置いて、帰宅するとなるといったい何時になってしまうのか……!


 というわけで、


「篝火さん。車に俺の銃のスペアがあるからさ、ちょっと持ってきてくれないか?」


「スペア? そんなものあったっけ?」


「うんうん。座席の下に置いてあるからさ」


 訝しむ篝火さんを無理やり車がある方向へ向かわせる。

 よし、これでオペレーターの安全は確保できたな。

 そして、


「双葉さん! あそこの瓦礫の上にカミオロシが!」


 霊玉とは反対方向を指さしながら、叫ぶ。

 双葉さんは「えっ!?」という驚いた声を漏らし、条件反射といった感じで俺の指さす方向に目を向けた。


 そして、その隙に俺はたんまり霊玉に霊力を注入。さぁ、生まれちゃうぞ~。


「双葉さん! 大変だ! 侵略者が生まれそう!」


「そんなことよりカミオロシはどこですか!?」


「悪い。見間違いだったみたい。というか今はそれどころじゃなくて――」


「カミオロシがどうでもいいみたいな言い方は止めてください!」


「あーもう! そうは言ってないだろ! とりあえず早く剣を抜いてくれ!」


 俺と双葉さんが言い争っていると、イヤホンから篝火さんの焦った声が聞こえてきた。


『なんでもう霊力が溜まってるの!?』


「なんか溜まった」


『――あ、百瀬くんが注いだの? もー、ビックリするから先に言ってよ~』


 てっきり怒られるかもしれないと思ったが、篝火さんはあっさりと許してくれた。なんというか、『俺がやったなら別にいい』って雰囲気の言い方だ。


「……霊力の要領に自信があるようですが、あまり自信過剰になっているといつか痛い目を見ますよ」


 ジト目を向けながら、双葉さんが言ってくる。

 はいはい、肝に銘じておきますよ。



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