第20話 自宅にて
我が家に女子が二人やってくる。
一人目のメンバーは俺と同じ部隊に所属し、留年経験者の篝火風香。
人見知りで気が弱い印象を持っていたのだけど、同じ部隊になってみたところ、意外と交流に力を入れているような印象を受ける。
俺が『篝火さんと双葉さんまで険悪だとまずい』と思い、彼女に矛を収めるようお願いしたということもあるのだろうけど、それを差し引いても、俺が思っていた彼女の印象とは違っていた。
そして二人目、俺のことが嫌いなエリート霊装士、水霧双葉。
白髪ロングの美少女ではあるけど、動物に例えると白ウサギではなくホワイトタイガー。
規律を重んじるくせに、人を助けるためにはルールを破る――主人公的なムーブをかましている年下の女の子だ。
サボり魔だった俺が同じ部隊にいることが気に喰わないらしく、一年後には俺と違う部隊に所属することを切に願っているらしい。
「昨日までどっしり構えてたのに、なんで急にそわそわしてるの?」
玄関近くでスマホ片手にうろちょろと歩き回っていると、トイレから出てきた妹の葵が俺にジト目を向けてきた。
「家の中に俺の正体がバレそうなモノなかったよな――って必死に考えてた。大丈夫だよね?」
「私も確認したから心配しないで。というか、身バレするモノって変装グッズとあの銃ぐらいでしょ」
「白虎な」
【死神】として活動する際に使用する、俺専用の白い霊銃。
ちなみに名付けたのはこの銃の製作者らしい。好きでもないし嫌いでもないので、名前に関しては特になんとも思っていない。
「銃もマントも仮面も金庫にしまったから大丈夫」
というわけで、俺がカミオロシだったり死神だったりすることがバレる心配はなし。
最悪、死神であることはバレても平気なのだから、いざという時はそっちの方向で誤魔化せば大丈夫だろう。
「昨日も言ったけど、あまり変なことは言うんじゃないぞ? 別にあいつらのことを嫌っているわけじゃないし……それに双葉さんに至っては、姉から頼まれてるんだからさ」
俺がそう言うと、葵はムッとした表情を浮かべて俺を見る。
「……わかってるよ。水霧一葉がお兄ちゃんの秘密を握っている以上、私もひどいことをするつもりはない。だけど、これは契約違反じゃん」
「ん? 契約違反――あ、来たみたいだ」
妹がなにか気になることを言ったタイミングで、篝火さんから到着したというメッセージが届いた。すぐにインターホンがなったので、マンション入り口のオートロックを解除。
「とにかく、お手柔らかに頼むぞ」
「えへへ、心配しなくて大丈夫だよ」
これまた葵はイエスともノーとも言わず、ニコニコと答えた。
お兄ちゃん、葵のやることはだいたい許しちゃうから、心配です。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~水霧双葉Side~
篝火さんと十四時に待ち合わせをして、二人で百瀬さんの住むマンションにやってきた。
どうやら彼はタワーマンションの二十二階に住んでいるらしい。私は初めてこんな高層階にやってきたので、柄にもなくドキドキしてしまった。ちなみに篝火さんは内廊下から見える中庭を見て、声にならぬ悲鳴を漏らしていた。
「「お邪魔します」」
チャイムを鳴らし、百瀬さんにドアを開けてもらってから、二人で入室する。
百瀬さんは半そで短パンのラフな格好をしており、なんとなくイメージ通り。その隣にいる女の子が、たぶん彼の妹の葵ちゃんなんだろうな。
私よりも篝火さんよりも小柄で、百瀬さんと同じく少し吊り目だった。
すごく似ているとは言わないけど、どこか面影のある感じがするなぁ。
「初めまして、百瀬葵です。兄がいつもお世話になっております」
脱いだ靴を揃えていると、葵ちゃんがペコリと頭を下げて挨拶をしてきた。
「えっと、初めまして、篝火風香です! お兄さんと同じで、私も留年したんだよ!」
えぇ……そんな自己紹介でいいの? 篝火さん。
すごく優秀な人なのに、このままでは葵ちゃんが変な勘違いをしてしまいそうだと思っていると、百瀬さんが肩をすくめてから説明を追加した。
「こんなことを言っているが、この人は、第三養成校の首席だぞ」
「うん、知ってるよ。出席日数を減らして留年した人だよね? よろしくお願いします篝火さん」
「いや、減らしてというか、足りなくてというか……まぁ留年は留年だな」
大変不本意だけど、こればかりは百瀬さんに同意する。
葵ちゃんのニュアンスだと、まるでわざと留年したみたいだもんね。
篝火さんが気を悪くしないだろうかと目を向けてみると、彼女はぽかんとした表情で葵ちゃんのことを見ていた。
『急になにを言いだしたんだろうこの子』とか思っているのかもしれない。
とりあえず、私も自己紹介をしておかないと。
「私は篝火さんたちより一つ年下になります、同じ養成校出身の水霧双葉です。よろしくお願いします」
そう言って葵ちゃんに向けて頭を下げる。
すると、彼女は淡々とした口調で「よろしくお願いします」と返してきた。
なんだか……こう言っては大変申し訳ないのだけど、妹さんから受ける印象はいたって普通だった。学校のクラスにいたら可愛い部類に入るだろうし、物腰も丁寧で、受け答えもしっかりしている。
妹さんに会えば何か百瀬さんのことがわかるかもしれないと思っていたけど、全然そんなことはなかった。ただただ、普通だった。
「お兄ちゃん、篝火さんとリビングで待っててよ。双葉さん、私と話したいみたいだったっし」
葵ちゃんにそう言われた百瀬さんは、一瞬何か言いかけたけど、すぐに篝火さんに向かって「こっちだよ」と手招きをしていた。なんだか篝火さんって妹っぽく見える。
遠ざかる二人の背を見送っていると、葵ちゃんが声を掛けてきた。
「私たちはこっちです」
なんだか、おかしいな。
私が百瀬さんの妹と話したいと思ってこの場に来たはずなのに……。
いつの間にか『葵ちゃんが私と話すための場』を作られたような気がして、背中に嫌な汗が流れた。
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