第16話 休日デート




 謹慎期間中にも、普通に休日はやってくる。

 週休二日で、俺たちE-403部隊の場合木曜日と金曜日の二連休なのだが、一日は家の家事や買い出しに使った。実に平凡な平穏で平静な一日である。


 で、休日二日目。


 俺は部隊のメンバー二人とお出かけすることになった。

 篝火さんによると、なんでも「休日に遊んだら、一層仲が良くなるとネットに書いてあったよ!」とのこと。双葉さんはルール違反の件があるし、俺も篝火さんに庇ってもらった疑惑があるので、了承することになった。


 今日の任務は、街にある人気スイーツの実食。

 そして、女子の洋服選びに付き合い、意見を述べる。

 どちらも俺は妹とのデートで経験済みなので、特に難しいとは感じない。


「俺が最後か、まだ五分前だぞ?」


 待ち合わせ場所の噴水前に到着し、声を掛ける。


「えへへ、楽しみだったから早めに来ちゃった」


 篝火さんは、黒のワイドパンツに、胸にでかでかとロゴの入った白のトレーナー。そして白いキャップを被っている。

 もっとほわほわした感じの服装を予想していたが、意外とボーイッシュな服装が好きなんだな。


「一秒でも遅刻していたら副司令官に報告したいたところです」


「デートに俺が遅刻してきましたって言うのか?」


「これはデートではありませんっ!」


 冗談だっての。そんなに顔を真っ赤にして怒んなくてもいいじゃないか。

 絶賛憤慨中の双葉さんは、これまた意外――ノースリーブの白いシャツに、薄いグリーンのロングスカートである。


 イメージ的には篝火さんと双葉さんが逆だったのだけど、案外目にしてみるとしっくりくるものだ。というか、改めてみるとやっぱり二人とも美少女だよなぁ。


 篝火さんは目元が隠れてしまっているものの、口と鼻を見ただけで『あぁ、可愛い子だな』と脳が理解させられるし、双葉さんは十人中九人が二度見してしまい、残す一人は幽霊でも見たかのようにフリーズしてしまうほどの美少女だ。


 この二人と一緒に街を歩いて大丈夫なのだろうか?

 万が一に備えて霊装で身体を強化しておいたほうがいいのかもしれないなぁ。

 あ、ちなみに俺は白シャツにジーパンという実に質素なものである。

 葵が「十分かっこいいよ」と言ってくれたので、たぶん大丈夫なはず。

 


☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 十字路の大きな交差点がある場所。

 その北西にある角地に目的のスイーツ店はあった。

 店内と店外に飲食スペースがあり、外のウッドデッキにあるテーブルは満席状態。ガラス越しに見る店内も賑わっているので、篝火さんの事前情報どおり、人気のお店なのだろう。


 俺たちはウェイティングリストに名前と人数を書いて、店外の屋根がある日陰で他の客と一緒に待機することに。


「そもそもここは何のお店なんだっけ?」


 俺が質問すると、双葉さんが大きなため息を吐いた。


「昨日篝火さんが話してくれていましたよ。パンケーキのお店です」


 あー……たしかにそんなことを言っていた気がする。スイーツに興味がなさすぎて大脳皮質さんが仕事をサボっていたようだ。

 店舗の看板にはオシャレな筆記体でMielという文字が書かれている。篝火さんに聞いてみると、フランス語ではちみつという意味らしい。はちみつを大量に使ったパンケーキでも出すのだろうか。


「えっとね、私のおススメは『幸せパンケーキ』かな。食べたことないけど」


「よくそれでおススメできたな」


「だっておいしそうだったもん」


 唇をほんの少し尖らせて、篝火さんがこちらを見上げてくる。

 葵も拗ねているときこういう顔をするんだよなぁ。俺の中で篝火さんの妹ポイントが一上昇した。上がったからなんだって話なんだけども。


「ちなみに『幸せパンケーキ』とはMielの一番人気商品で、福岡県産のあ〇おうをふんだんに使ったパンケーキです。三層のパンケーキの上にイチゴとアイスクリームが乗っています」


「ほー……それなら酸味もあっておいしそうだ。というか、よく知ってるな? 行ったことあるのか?」


「……行ったことはありません。昨夜調べました」


「もしかして双葉さんも結構楽しみにしてた感じ?」


「は、初めて行くお店なのですから! 危険がないか調べるのは普通でしょう!」


 スイーツ店に危険があるとすればカロリーの暴力ぐらいしかないと思うんだがなぁ。

 ――と、ツッコみを入れたところで新たな火だねを生むことにしかならないので、俺は大人しく「そうだなぁ」と平凡な返答をしておいた。

顔が真っ赤でいちごみたい――という言葉ももちろん胸にしまう。


「女の子は甘い物に目がないんだよ百瀬くん」


 いつになくはしゃいでいる篝火さん。

 学校だったり、部隊の初日はおどおどしている印象があったけど、こっちが素なのだろうか? だとしたら、打ち解けてきているようで良かった。

 どうなることかと思ったけど、今日は来てよかったと思う。そう判断するのはまだ早いかもしれないが。


「じゃあ部隊室にもお菓子とか常備しておいたほうがいい? 今度適当に買ってこようか?」


「それは名案だよ百瀬くん!」


「――ふんっ、たまにはまともなことも言うようですね」


 なんかめちゃくちゃ高評価だった。

 篝火さんだけならまだしも、双葉さんも嬉しそうに見える。

 部隊室にはおやつなんて一つもないし、冷蔵庫の中身も水とお茶だけだからなぁ。その辺りをもっと充実させてあげたら、双葉さんと距離を縮めるのに役立つかもしれないな。


 そんなことを考えていると、


「……ん?」


 道路を挟んだ向かい側に、私服姿の柿崎くんらしき人を見つけた。その人物は建物に背を預けていたのだが、俺と目が合うとスッと立ち去っていった。

 別人……? それとも、柿崎くん本人か?


「どうしたの? 百瀬くん」


「あぁ、ちょっと知り合いかなと思ったけど、違う人だった」


 篝火さんの問いには、そんな風に答えておいた。

 本人だったらなんだか不気味だなぁ……副司令官に相談するまでもないが、この前の件もあるし、ちょっとだけ彼を警戒しておくことにしよう。



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