第8話 いざ現場へ
霊装士が現場に向かう時は、陸上自衛隊が使用する高機動車を少し改造した車両が主に使われる。
なぜそんな車両を使うのかというと、侵略者対策という理由が一つ、そしてもう一つ大事なのが、侵略者が発生する場所は、金網と有刺鉄線で囲まれた『荒廃地区』と呼ばれる人が住まなくなった地域であり、瓦礫が散乱していることが日常茶飯事だからだ。
いちおう、警察や自衛隊の人が道路上の瓦礫撤去をしてくれてはいるが、完全ではない。
俺たちが担当するエリア1という荒廃地区は、他に比べて少し広いからなぁ。
「寝られる広さだ。この空間を一人占めできると考えれば、三人編成も悪くないな」
本来は十人ほど乗れる車のはずだが、篝火さんは運転席、双葉さんは助手席に座っているので、後部座席には俺ひとりだけだ。
長い椅子が向かい合うように配置されており、荷物は篝火さんが使う機器が椅子の下におかれているだけなので、ほぼ俺だけの空間といっても過言ではない。
椅子が固いこと、段差で時折激しく揺れること、そして枕がないことに目を瞑れば実に快適である。……要するに、あまり快適ではなかった。ソファの持ち込みを検討しよう。
「私としては篝火さんとの二人編成でも構わないのですがね」
「これがツンデレってやつか……もしくは百合?」
「殺しますよ?」
マジモンの殺気を浴びせてきやがった……子供が見たら泣いちゃうぞ。こんな荒廃地区に子供がいたらそれはそれでホラーだけど。
「霊装士が霊装士を殺したら重罪だぞ~。もし双葉さんが犯罪者になったら俺が牢屋に連れて行ってあげよう」
「では半殺しにしておきます」
「いやそれも犯罪だからね?」
声のトーンがマジのやつなんだよな。あぁ恐ろしい恐ろしい。
「も、もう! 二人ともケンカしちゃだめだよっ。仲良くしてね?」
篝火さんは偉いねぇ。
ちゃんと仕事はこなしているし、こうして俺たちの仲を取りもとうとしてくれている。
自分は双葉さんのことを『苦手』と言っていたのに、そんな気配は微塵も見えない。
まぁポーカーフェイスに関しては、俺もなかなかのものだと思うが。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
約百五十年前――つまり1900年代の街並みが残る荒地を移動して、現場に到着。十字路の中央付近だったので、障害物が少なく戦いやすい立地だ。
そこには霊玉を囲むようにバリケードが設置してあり、警察の人がひとりで待機してくれていた。
その人のところにテテテと篝火さんが小走りで駆けよっていき、お互いに敬礼してから、警察の人は離れた場所に移動。あとは俺たち霊装士の仕事である。
「じゃあさっそくやっちゃうね」
まず、篝火さんが霊力誘導機というモノを宙に浮く霊玉の真下に設置。
簡単に言うと、霊玉から侵略者が発生するのを早めるための装置だ。
「そういえば、双葉さんの霊装強度って六だっけ?」
俺は腰に差した二丁の霊銃を抜いて、くるくると回しながら聞いてみる。
「……なぜ知っているのですか? 気味が悪いのですが」
そんな汚物を見るような視線を向けないでください。
とりあえず、副司令官に聞いたことにしてお茶を濁した。
「あなたは?」
「さぁ? 計測してないからわからん」
「学校であったでしょう?」
「サボった」
俺の返答を聞くと、双葉さんは昨日の姉と同じように額に手を当ててため息を吐いた。
霊装とは、身体に霊力を纏い身体能力を向上させる霊装士の必須技術だ。
強度一だとあまり変化はないが、双葉さんの強度六ともなると、拳でコンクリートを容易く破壊できるだろうし、一軒家ぐらいの高さまで跳ぶこともできる。ちなみに、学生の平均霊装強度は三ぐらいだ。
ぶっちゃけ、彼女レベルの強さなら霊装を纏うだけで危険度Eなんて素手でボコボコなんだよなぁ。剣のチェックを念入りにしているようなので、無粋なことは言わないが。
双葉さんと交流を深めることに失敗したところで、篝火さんがやってきた。
「あと五十七分で侵略者が生まれるよ」
「あぁ、ありがとう篝火さん」
「ありがとうございます」
二人で篝火さんに礼を言ってから、沈黙。
ここから霊力を霊玉にそそげば、その分出現を速めることはできる。
しかし霊力を温存するため、その行為は基本的にNGだ。敵の出現を早めるために霊力を使い、戦うための霊力が残ってないとか笑えないからな。
だけど、霊力は腐るほどあるんですよね、俺。
「ちょっとぐらい入れたらダメ?」
「ダメです。養成校で何を習ってきたのですか」
ですよねー。双葉さんならそう言うと思ったよ。でも一時間もだらだらしているだけとか暇じゃん。
「あ、あの。私が入れようか?」
「ダメです。不測の事態が起きたとき、篝火さんも襲われる可能性があるのですよ? 霊装無しでは大けがに繋がる危険性があります」
「あうぅ」
ダメだった。まぁ言っていること自体は双葉さんが正しい。霊装士のオペレーターは現場に出向くのが基本だからな。
篝火さんはきっと、恩返しの一環で俺の意見に同調してくれただけなのだろう。
俺に恩を返したところで、あまりいいことはないと思うが。まぁ恩返しってのはもともと自己満足みたいなものだから、そう思うのはお門違いかもしれないけど。
俺の贖罪だって、きっと似たようなものだし。
しかたない……大人しく一時間待つとしますか。
~~作者あとがき~~
ここまでお読みいただきありがとうございます!
この物語が面白いと思っていただけましたら、ブックマーク、
☆レビューなどしていただけると嬉しいです!(o*。_。)oペコッ
今後も頑張りますので、どうぞ応援よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます