第3話 険悪な仲間たち



 双葉さんは納得できないと言っているが、こうして部隊に配属された以上、そういった我儘は受け付けられない。

 そりゃチームワークも大切だろうけど、仲が悪いのなら仲良くなれという話だからな。


 結局、俺たちは険悪ムードのまま改めて三人で自己紹介を行った。


 といっても、俺は二人と深く関わったことがないとはいえ、お互いに名前や顔は知っている。双葉さんと篝火さんも似たような関係らしく、改めて自己紹介をしたことで得られたものは特になかった。


 そして、話題はこれからの話になる。


「わ、私たちの本格的な活動は一週間後からになるから、それまでは事前準備や作戦会議って感じかな」


 そう言いながら、篝火さんは俺と双葉さんの仕事用スマホに勤務シフトのデータを送信してくれる。


 俺たちの部隊――E-403部隊は乙番という九時から六時という時間帯を担当するのだが、甲番丙番を担当する部隊よりは給料が安い。

 俺としては妹と過ごす時間が増えるので万々歳である。


「Eランク部隊の活動だと、危険度Eの侵略者を一日あたり平均三体倒すことがノルマになっているんだけど、二人の希望はどれぐらい?」


 希望の討伐数ねぇ。

 基本給だけでも十分だから、俺はあまり危険なことはしたくない派である。


 というか、もっと欲を言うならば永遠に昇給無しのEランクでも構わない。汗水と血を流して働いたって、給料が上がることぐらいしか良いことなないだろうに。

 地位や名声なんて、煩わしくなるだけだ。


「とりあえずEを三体だな」


「私は危険度Eを三体、危険度Dを三体希望します」


 おおぅ……双葉さんの視線が痛いよ。そして怖いから拳を握りしめないで。

 頑張りたい気持ちはわかるが、双葉さんも篝火さんもペーペーの新人だぞ? まずは現場になれることから始めるべきだ。


 まぁこれはあくまで希望の聞き取り調査だから、無理に反発しなくてもいいか。


「じゃ、じゃあ、間をとってEを三体、Dを一体にしよっか」


 篝火さんがニコニコとした表情で言う。

 笑顔が眩しいぜ。君はまるで砂漠に咲く一輪の花のようだ。


「それでは間をとれていませんよ?」


 うん、それは俺も思ったけど。黙ってたんだよ。


「そもそも、この怠け者の意見など聞き入れるべきではありません」


 双葉さんがそう言うと、篝火さんは黙って俯いてしまう。

 唯一俺から見える口元を見ると、下唇を噛んで悔しそうな雰囲気だった。俺ならまだしも、君が悔しがる必要はないだろうに。


 ――あぁそうか。


 篝火さんにとっては、とんでもないところに配属されちゃったって感じなんだろうなぁ。俺と双葉さんのせいで篝火さんに迷惑をかけるのは、さすがに申し訳ない。

 原因の大部分は俺なのだし、俺がなんとかしたほうがいいか。


「じゃあとりあえず、篝火さんの提案してくれた討伐数にしよう。その後は状況を見て討伐数を考えるってことでどうだ?」


「あなたが仕切らないでください」


 別に仕切ったつもりじゃないっての。

 彼女がピリピリしてしまっているのは、やはりその肩にのしかかる重圧のせいなんだろうか。学生のころから、どうやら双葉さんは先生たちにもかなり期待されていたようだし。


 そのことを考えるとあまりきついことは言いたくないんだよな。

 その理不尽な重みは、俺もよく知っているから。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 やはり一度副司令官と話してきます――そう言って双葉さんが出ていってしまったため、俺と篝火さんは二人きりの状態になった。

 無言が続くと気まずくなるのは目に見えているので、とりあえず本能の赴くままに行動することにした。


「よし! 部屋の調査をするぞ篝火さん!」


 部屋を与えられたらとりあえず探検をする――実に一般的な行動だ。旅館なんかでも、とりあえずテーブルの引き出しとか開けたくなるよね? ならない?

 俺が立ち上がると、篝火さんも「う、うんっ!」と言って立ち上がる。


 その勢いで、篝火さんの特定の部分が上下に弾んだ。特大のお胸様である。

 俺は自称紳士男子なのでチラ見に留めておいた。サイズはEぐらいだろうが危険度はSクラスである。


「というか、普通は部屋の探検からするよな? うちの部隊、やっぱりヤバくない? 一週間後に活動開始できる気がしないんだけど」


 二階に続く階段をのぼりながら、後ろを歩く篝火さんに問いかける。


「……私、水霧さんのこと苦手かも」


 おっとぉ……あまり聞いたらいけないような情報が出てきたぞ? 陰口、よくない。

 俺と双葉さんだけでも険悪だったというのに、これに篝火さんまで加わったらどうなってしまうんだ。考えるだけでも恐ろしい。


「えっと、それはどうして?」


「百瀬くんを悪く言う人とは、仲良くできないよ」


 振り返ってみると、彼女は階段の手すりを握り、俺の胸のあたりに視線を向けていた。

 なんだかやたらと篝火さんは俺に対する好感度が高いなぁ。

 二年ぐらい前に一度手助けしただけだというのに、律儀な子だ。

 むしろあの時俺がやらかしたことで、距離を取られてもおかしくないと思っていたのに。


「はは、そう言ってくれてありがとう。だけど、俺は嫌われても仕方のないようなことをしてきたし、文句を言われるのは当然と言えば当然なんだよ」


 そう言ってみるが、彼女は納得していなさそうにムッとした表情を浮かべた。

 俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、俺には俺のやるべきがある。だから、この部隊を解散させるわけにもいかない。

 なんとかして双葉さんと仲良くなる必要があるんだよなぁ。


 今後、心を入れ替えて真面目に働きます!


 そんなことを言ったとしても、双葉さんにとって俺の言葉の信頼性なんて皆無だろうし。困った。

 せめて現状より悪化だけはしないでほしいものだ。


「俺も双葉さんと仲良くできるように頑張るからさ、篝火さんも頼むよ」


 篝火さんの肩に手を置いて、笑いかけながら頼んでみる。すると彼女は、しぶしぶといった様子で頷いた。


「百瀬くんがそう言うのなら……頑張る、けど」


 今度は頬っぺたをぷっくりと膨らませた不満顔である。

 上目遣いはちょっとドキドキしちゃうから、ご遠慮願います。




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