第2話 E-403部隊
無事、時間通りに集合場所であるエリア1の勤務隊舎に到着した。住んでいるマンションから徒歩十五分の距離だし、遅刻するほうが難しい。
大学のキャンパスにある校舎のような建物に入ると、そのまま新人霊装士の俺たちは講堂に集められた。
横一列に整列し、出身と名前だけの簡単な自己紹介をする。
「第三霊装士養成校出身、
頭を上げると、同期の六人がパチパチと静かな拍手をしてくれる。
今回、俺と同じエリア1に配属された新卒の霊装士は七人。
そのうち三人は俺と同じ学校に通っていて、さらにその三人のうち二人は話したこともある生徒だった。
だだっ広い講堂に集められた俺たち七人は、自己紹介を終えてから、上司となる
金髪が似合う二十代半ばの綺麗な女性だが、肩書としてはエリア1の副司令官というエリートである。
ちなみに、この人も俺の知り合いだ。
「――話は以上です。各自、霊装士として恥じない行動を心がけるようにしてください」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
「――では、部隊編成を伝えます。異議申し立ては受け付けません」
水霧副司令官は有無を言わせない態度でそう言ってから、手元のタブレットを見て新卒の霊装士の名前を読み上げ始める。
四人呼ばれたが、俺はそこに含まれていない。あちらのE-402部隊はオペレーターの女の子一人に、男三人という部隊になるようだ。
そしてこちらはというと――、
「次、E-403部隊。水霧
「……はい」
「なんですかその返事は。やる気がないのなら帰って構いませんよ?」
「――っ!? も、申し訳ありませんっ」
「水霧双葉」
「はいっ」
一人目、水霧双葉。
俺と同じ第三養成校を卒業した、副司令官の妹。
将来、霊装士を率いる存在になるとまで言われている超エリートの女の子だ。
能力だけみても周囲から突出しているのだが、彼女は外見も目立つ。どうやら身体に流れる血は日本人のものだけではないらしく、髪は白くて、瞳は青いのだ。
自分にも他人にも厳しい性格のようで、留年していた俺は彼女にとても嫌われていた。
いや、現在進行形でめちゃくちゃ睨まれてるけどね?
「
「は、はいっ!」
「もっと自信を持って返事をするように」
「はいっ」
二人目、篝火風香。
この子も俺と同じ第三養成校出身で、霊装士をサポートする役職――オペレーターを専攻していた女の子である。
彼女は俺や水霧さん――じゃややこしいな。双葉さんとはまた違った意味で特殊だ。
篝火さんは入学試験をトップの成績で合格し、出席日数が足りずに俺と一緒に留年した。
そして、トップの成績で卒業という変わった経歴の持ち主である。
篝火さんも双葉さんと同じく、様々なエリアからスカウトが来ていたという噂だったが、どうやら彼女はこのエリアを選んだらしい。
エリア1は日本全国のなかで一番侵略者が多く、優秀な霊装士も多い魔境だ。意外と篝火さんは上昇志向が強い子なのかもしれないな。
そして最後に――俺。
「百瀬千景」
「はい」
「仕事が始まれば、遅刻や欠席は部隊の減点となりますから、そのつもりで」
「了解」
勉強の成績は中の下ぐらいだったかなぁ。
戦闘訓練も適当にやっていたから、たぶんこちらも成績は中の下ぐらいだったと思う。
というか、副司令官は俺が学校を休んでいた理由を知っているんだから、敢えて言わなくてもいいだろうに。
俺以外の二人に聞かせるために言ったのだとは思うが――あなたの妹の双葉さんがマジで人を殺しそうな視線で俺のことを見てるんだよね。めちゃくちゃコワイデス。
「今後の動きについては各部隊のオペレーターに前もって伝えてあります。与えられた部屋にて、新たな仲間同士で話し合うように」
「「「「「「「はっ」」」」」」」
副司令官の言葉に、俺たちは敬礼とともに返事をする。
さてさて……このメンバーでまともに霊装士として活動できるのかねぇ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俺たちはE-403部隊に与えられた個室に移動し、備え付けのソファに着席。
部屋の中は二階建て構造になっていて、一階部分にはソファやテレビ、小さなキッチンなどがあり、二階は一階の半分の広さで、みたところ会議スペースといった感じだ。ちなみに、二階の残りの半分は吹き抜けの構造となっている。
次からは朝九時にこの部屋に出勤することになるらしい。退勤は夜の六時で、週休二日の最高にホワイトな職場です。死ぬこともあるけどね!
「納得できません」
ソファに着くなり、対面の席に座る双葉さんが俯いたまま言葉を漏らした。とりあえず触らぬ神に祟りなしということで無視しよう。
ちなみに、その隣に座った篝火さんは「おっきい部屋だね」とウキウキ顔で辺りを見渡している。
「このソファも座り心地良いよな」
「う、うん。ふかふかだよね――えへへ」
俺の言葉に、篝火さんははにかんで答えてくれる。
一般的な黒髪のミディアムヘアだが、前髪だけは目元が隠れるほどの長い。
そんな表情の読みづらい彼女は、太もも部分の制服をぎゅっと掴んで、モジモジと身体を動かしている。相変わらず照れ屋だな。
「私は! 納得できませんっ!」
やべぇ、もう一回言ってきやがった。しかもボリュームマシマシだ。
無視しようかと思ったが、今度は篝火さんの脳にもしっかり届いたらしく、彼女はキョトンとした表情で首を傾げる。
「で、でも、この部屋とても豪華だよ? 二階もある部屋なんて素敵だし、あのテーブルでトランプ大会とか――「違いますっ!」――へ?」
篝火さんのほんわか妄想は、双葉さんによってかき消されてしまった。
「篝火さんは留年したとはいえ、原因は病欠だと聞いていますし、成績がとても優秀なのは存じています」
双葉さんはそこで一度区切って、ため息を吐いた。
「しかし、この馬鹿は――この大馬鹿者はただのサボりで、授業態度も最悪、上官の言うことを無視するわ授業中に教室から脱走するわやりたい放題です! 霊装士の仕事は遊びじゃない――私はこんな人間に命を預けたくはありません!」
叫び終えると、双葉さんは肩を上下に動かして息をする。
まぁ実際にサボったことがあるのは否定できないし、理由を説明できないからどうしようもないのだけど。
「百瀬くん、噂では聞いていたけど、本当に脱走とかしていたの?」
篝火さんが首を傾げながら聞いてくる。
彼女とは同じクラスになったことはなかったが、留年組として勝手に仲間意識を持っていた。まだ入学したてのころ、彼女にちょっとお節介を焼いたことがあったし、嫌われてはいないと思うが。さすがに幻滅されるだろうか?
「一年目のころは、ちょくちょくな」
「か、かっこいいなぁっ」
されなかった。というか手を組んで感動のポーズをするのは止めよう。
決して褒められたことではないのだから。
あとさ……君には隣の般若が視界に入らないのかね。
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