第9話 最初の勇者

<横暴な勇者視点>


王城の1部屋を借りて今後の予定を決める勇者たち。その中心となっているのは意外にも鑑定のスキルを持っている勇者だった。


「では、今後の方針を決める。まずは10人毎に班を作って東西南北、そして、中央に残る班を決めていくことにする。何か異論は?」


この言葉に反論する勇者はいなかった。それどころか速やかに班分けを行っていく。


「てか、全員行動がはえーな。で?俺と組む女はいねーのか?」


横暴なことで全員の注目を集めている勇者の1人が言葉にすると女勇者全員が嫌な顔をする。


中にはその勇者に向かって舌を出している者までいる始末だ。そんな俺に向かってリーダー気取りの勇者が声をかける。


「君のその態度は勇者らしくないよ。そして君は1人残っている状態だ。君の入る班は自動的に9人が集まっているところだよ」



その班は素行が良くないメンバーで構成されていた。俺は不貞腐れながらも大人しくその班に加わった。


「それでは班分けもできたことだし、どの方角に行くかを決めようか。ちなみに中央は僕たちの班が受け持つ。魔素を散らすことのできる浄化を使える彼女がいるからね。国王様からも可能な限りそうしてほしいとの打診を受けている。異論はあるかい?」



「てめぇ。最初から自分は中央にいるつもりだったんだろ。だから浄化を班に組み込みやがったな」


「その通りだよ。もちろん彼女にも確認をとっていい返事を貰っている。それにリーダー役なんてものを引き受けたんだ。このくらいの役得があってもいいだろ?」


「ちっ!」


「そうそう。君のいる班には南に行ってもらうよ。どうやら常に霧が発生している場所ができたらしい。君のスキルなら霧と相性がいいだろう?」


俺は、リーダーのその憎たらしい顔を殴りたくなったが周りの奴らが俺に敵意を向けているのを感じて我慢した。


「俺はともかく他の奴らはいいのか?」


俺にしては珍しく周りの奴らに気を使ったように話を振ってみた。


「君以外は3人1組で行動することになっているよ。つまり、その霧が発生した場所には君が1人で向かうことになる」


何もかも先手が打たれていることに嫌気がさしたが、1人であれば自由が効く。それも悪くないと感じた。


「わかったよ。で、俺のスキルがその霧とやらに効果がなかった場合は?」


「珍しく物分かりがいいね。近くの街で冒険者を連れてとりあえず攻略してくれ」


俺は右手をぶらぶら振りながら了解の意を示した。

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