大学生活

 大学生になって一人暮らしを始めた。

 荷物はそれほど多くなかったため、荷解きは一日で終わった。


 高校を卒業したのを最後に、浩多さんとは一度も会ってない。

 ラインでお話しはしているけど、やっぱり会いたいなって思ってしまう。

 でも、お仕事が忙しそうだし、私は私で慣れない大学生活と一人暮らしであたふたしてる。


 大学では友達とまではいかないけど気軽に話せる人はできた。

 金髪で少しメイクが濃くて、ギャルな子。名前は屋梨やなしさん。

 最初は苦手なタイプって思っていたけど、話してみたらとても優しく気さくな人で、どことなく西原さんに似てるなって思った。


 と、噂をすれば、から揚げ定食ののったお盆を持った屋梨さんがやって来た。


「かつ丼売り切れやったー。有名店のコラボだっけ、あたし知らないけど美味しそうだったのに、悔やまれるわー」

「人気でしたからね」

「って示堀はまたかき揚げうどんなわけ? ほんとよく飽きないよねー」

「かき揚げが美味しいんです」

「あーもう可愛すぎ」


 屋梨さんに力一杯抱きしめられる。

 うぐっと苦しかった。

 屋梨さんはちょっとスキンシップが激しめで、初めて話しかけられた時も頬とか髪の毛とか「もちもちじゃん」「すべすべじゃん」と言ってベタベタ触られた。


「あたしのものにしたいわー」

「じょ、冗談ですよね」

「いやマジ」

「あ、困ります」


 屋梨さんの顔は本気だった。


「でも示堀って彼氏いるんだよね」

「はい。遠距離になってしまいましたけど」


 あの時、浩多さんが好きだと言ってくれた。

 毎朝一緒に電車に乗るだけの関係だったのが、あの日を境に私たちの関係は進展した。


「遠距離ねー」


 遠距離は続かない。と、言いたそう。

 それは私も知ってる。

 ネットで調べたから。

 気持ちのすれ違いとか他に好きな人ができるとか、あとは……恥ずかしくて言えない。

 だって浩多さんとはまだ手も繋いだことないのに。


「あたしも出会いないかなー。今度合コンがあるからそこでちょっと期待かな」

「頑張ってください」

「なんだ高みの見物か? 彼氏持ちは余裕だねぇ」

「そ、そんなことないです、あっ、そこ、く、くすぐったいですっ」


 デコレーションされた人差し指の爪で、弱いお腹を突かれ思わず笑い声が漏れてしまった。


「遠距離だとデートもできないよね」

「デートはまだ一度も……」


 お互いに忙しくてデートは一度もしてない。

 屋梨さんは目を丸くした。


「え、驚きなんですけど。それ本当に付き合ってるの?」

「はい。お互いに忙しくてなかなか時間が取れなかったんです」

「時間は作るものだよ。一回くらいはできると思うけど……」


 屋梨さんは難しい顔をする。


「人それぞれなのかな? ていうか、一回もデートしてないのにいきなり遠距離って、それハードすぎない」

「でも私は好きですし」


 その気持ちに偽りはない。


「でも向こうが違ったら……って、私が口出すことじゃないけど」

「そ、そうですよね……私は好きでも浩多さんがそうじゃなかったら……」


 考えただけでも気持ちが焦ってしまう。


「ああごめんごめん! 落ち込まないで! よしよしよしよし」


 俯いていると屋梨さんに優しく頭を撫でられた。


「とりあえず食べよ! ね、うどん伸びちゃうし」


 私が落ち込んでしまったために、屋梨さんを戸惑わせてしまった。

 でも、考えてみたら浩多さんだって年頃の男の子だから、他の女の人に興味を持つことだってある。


 そう考えるとなんだか不安になってきてしまった。





 その夜。

 依然として不安が拭えなかった私は、思い切って浩多さんと通話できませんか? とお願いしてみた。


 浩多さんからは快く、いいよ、と返ってきたので通話ボタンを押すとすぐに出てくれた。

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