社会人になって

 あれから俺は通信制の高校を卒業し、高校側の手厚いサポートもあってとある食品系の工場に正社員で入社することができた。


 最初は戸惑うばかりだったが、少しずつ周りの人たちとも打ち解け、仕事も普通にこなせるようになった。


 そうしているうちに、愛野さんは大学へ進学し、県外へ行ってしまった。

 お母さんからの束縛が少し和らいだのか、スマホは自由に使えるようになり、毎日のようにラインで話している。


 会えないのは寂しいけど、こうしてラインで繋がっているからちょっとは寂しも紛れるというもの。

 ただ、俺が一番懸念しているのは、大学で愛野さんが他の男に言い寄られていないか、というところ。

 俺が一目惚れしてしまったのだから、俺みたいに一目惚れした人がいてもおかしくはない。

 言い寄られてないだろうかと心配になる。


 でも、俺たちの関係は今もなお曖昧だ。

 あの時、告白はした。そしてお互いに好きだとわかった。けど、付き合っているのかと言われたら答え難い。

 お互いが好きだと認識しただけにすぎないし、付き合って下さい、とか明確な言葉を口にしたわけでもない。


 あの時、ちゃんと言葉にしておくべきだったのかもしれない。


 ラインで繋がっているのでいつでも言えるチャンスはあるのだけど、なんだか軽い感じがして躊躇っている。

 それに、もし断られたら目も当てられない。

 あの告白から年月は経った。

 心変わりがあってもおかしくはないのだ。


「橋島くんって彼女いるの?」


 仕事が終わり更衣室で着替えていると、同じ班の先輩がそう話しかけてきた。

 眼鏡をかけていて、全体的に細身だけど腹筋はバキバキに割れていて細マッチョ。

 俺がこの職場に来て最初に話しかけてくれた人で、困ったことがあると颯爽と助けてくれる優しい先輩。


「残念なことにいません」

「まじか」

「マジです」

「まぁお互いに頑張ろう。俺も彼女いないし」


 先輩は早々に着替え終えると鞄を持った。


「ほんじゃあお疲れ〜、帰り気をつけて」


 そう言ってそそくさと更衣室を出て行った先輩はきっと今からパンチコなのだろう。

 打ちたい台が出たって言ってたから。俺はよくわからないけど。


 それから俺も着替え終え、更衣室を後にした。

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