愛野さんのノート
夕方、約束通り愛野さんがノートを持ってやって来た。
「こんなにいいの?」
紙袋に入っていたのは数十冊のノート。これ全部が数学のノートだ。
「自分で言うのもなんですが、わかりやすく、これだけで完結できるようにまとめているつもりですので、きっとお役に立てると思います。でも、もしわからないところがありましたら遠慮なく訊いてください」
そんなことを言われたら気になる。
俺は紙袋の中から一冊取り出してパラパラとめくってみた。
公式の覚え方や解き方のコツ。考え方など事細かに綺麗な字でまとめられていて、見ていてウッと苦手意識が顔を出すこともなくわかりやすかった。
「めっちゃわかりやすいよ。マジでありがとう、助かる」
「いえ、もう使わないので持っていても仕方ありませんから」
愛野さんは言いながら恥ずかしそうに俯いてしまった。
愛野さんが帰った後、部屋に籠りさっそくノートを広げる。
何度見ても字が綺麗だ。
それに、俺でも理解できるほどのわかりやすいまとめ方。さすがと言わざるを得ない。
ページをめくっていくと、一枚の写真が出てきた。
どこかの遊園地だろうか。
観覧車をバックにお母さんとお父さんに挟まれ満面の笑みを見せる愛野さんの小さい頃。
この時から既に小さかった。
こんな笑顔するんだな。
ここまでの満面は見たことはない。
俺が見たことあるのはせいぜい微笑んだ程度。
俺も見てみたいな。
こんな笑顔をする愛野さんを。
そうとなると俄然やる気が出てきた。
「明日返しに行くか」
俺が持っていても仕方ないし、何より、愛野さんにとって大切な写真だろう。
写真を机の空いたスペースにそっと置いて再びページをめくった。
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