本腰入れて
「これもわかんないの!? お姉ちゃんびっくりなんだけど」
夕方、俺は姉ちゃんに勉強を教えてもらっていた。
勉強と言っても、大学を目指しているわけではなく、就職に向けてのものだ。
大学に行かないのは、行ってもやることがないし、何よりも、とりあえず行く、では親が許しをくれない。
まぁ、俺自身、今から勉強して行けるのかと言われると怪しいし、現実的なのが就職である。
ちなみに愛野さんはあれからお母さんのところに残った。
お父さんは意外にも快く了承してくれたみたいで、夢は諦めるなよ、と言われたらしい。
それにしても、姉ちゃんが意外と厳しくてぴえんだ。
家庭教師のアルバイトしてるから教えることに関してこれほどの適任者はいない。そう思っていたのだが、俺があまりにもわからなさすぎて若干呆れ気味。
特に数学はマジでわからん。
「これ一般常識よ。今まで何学んできたの?」
「あの、もう少し優しく教えてもらえると助かるんだけど」
「それはお姉ちゃんの仕事じゃない。というか、しほちゃんを迎えに行くんでしょ、頑張らないと」
姉ちゃんには昨日のことを言ってる。それがさらに姉ちゃんのやる気に火をつけてしまったわけだ。
「ここ理解してないと後々きついよ。しっかり叩き込むからね」
「お手柔らかに……」
こうして俺は毎日勉強漬け。
そんな俺に付き合ってくれてる姉ちゃんは、教え方は厳しいけど、優しいんだなと改めて思った。
電車に揺られ、ぼーっと窓の外を見ながら半分ほど寝かけていたら、服の裾を引っ張られた。
下に視線をやると、愛野さんがスマホを向けていた。
『寝不足ですか?』
『ちょっとだけ』
『私にできることはありませんか?』
『大丈夫だよ』
『わかりました』
スマホを向ける愛野さんはちょっとしょんぼりしていた。
もしかして頼ってもらいたかったのかな。
『恥ずかしながら今さら本腰入れて勉強しててさ、ちょっと苦戦してるんだよね』
読み終わったのだろう。しょんぼりしていた顔がパッと明るくなった。
教えれます! と言わんばかりだ。
『どこがわからない感じでしょうか?』
『中学生の時に習ったはずの数学。見事に何も覚えてなくてさ』
数学が苦手だったというのもあるだろうけど、それにしても覚えてなさすぎて姉ちゃんに何度呆れられたことか。
きっと愛野さんも呆れることだろう。なんて思っていたのだけど、彼女はどうやら違うらしい。
『中学の時のノートがありますのでお貸ししましょうか?』
『いいの?』
『はい。今はもう使ってないので大丈夫です。でしたら今日夕方に持って行きますね』
『ありがとう! 助かるよ』
何と思わぬところでアイテムをゲットだ。
愛野さんがまとめたノートならわかりやすいこと間違いないだろう。一度も見たことないけど、何となくそう思った。
『勉強頑張ってください』
『頑張るよ。愛野さんも頑張って』
そうして俺たちは改札でしばし別れるのだった。
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