続く夜
「私、決めました」
愛野さんはそう言うと立ち上がった。
「決めたって、どっちに行くかってこと?」
「はい。私、お母さんのところに残ります。お父さんには申し訳ないのですが、ここまで頑張ってきたのに中途半端で止めることはできません。それに、浩太さんが必ず迎えに来てくれると言ってくれましたので」
「い、言ったけど、あんまり期待しないでもらえると……」
凄いプレッシャーを感じるのは気のせいだろうか。
でも、言ってしまったからには頑張らないとな。
愛野さんは不意に大きく欠伸した。
慌てた様子で口元を手で隠すが、時すでに遅しであった。
「申し訳ありません。何だか突然眠くなってきました」
「良いことじゃん。それじゃ、家まで送るよ」
俺もベンチから立ち上がって、それから愛野さんと公園を後にした。
吹き抜ける夜風はさらっとしてほんのり冷たく心地の良いものだった。
特に会話はなかった。
お互いに前を向いて歩いていて、でもそれが気まずいとか思うこともなく、ただ愛野さんの家に向かって歩き続けた。
家に着くと愛野さんは丁寧にお辞儀した。
「ありがとうございました」
「うん。またね」
「はい」
ポケットから鍵を取り出して音を立てないように慎重に解錠する愛野さん。
「浩太さん、お休みなさいです」
「お休み」
もう一度ぺこりと頭を下げ、愛野さんは家の中へ入って行った。
帰るか、と背を向けた時、ぐっと服の裾を引っ張られる感触に襲われた。
振り向くと、さっき家の中に入って行ったはずの愛野さんがいつの間にか立っていた。
「どうした?」
「あの、無理だけはしないでください。浩太さんにもしやりたいことが見つかったらそちらを優先してください」
「うん、わかった。その時は愛野さんと一緒に追いかけるよ」
「浩太さん、何もわかってないです」
ちょっと拗ね気味の愛野さん。
こんな顔もできるのか。可愛いなぁ。
「俺は頑張るよ。今からどれだけできるのかわからないけど、やるだけやってみる」
「はい。私にも手伝えることがあれば言ってください」
「その時は頼むよ」
と言っても、俺が頑張るしかないのだけど。
「私、浩太さんが迎えに来てくれるその日までには相応しい女の子になってますから!」
「そ、そうね」
どちらかと言うと相応しくないのは俺の方なんだけどな。
だから頑張るわけで。
でも、愛野さんのやる気に満ちた顔を見ていると何も言えなかった。
それから愛野さんは家に戻って行った。
後ろで小さく鍵の閉まる音が聞こえた。
ふとスマホを見ると姉ちゃんから着信がきていた。それも三件。
今頃姉ちゃんは遅いってお怒りなことだろう。
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