久しぶりな気がする
思ったより早めに風邪が治った。
これもあの子からの差し入れのお陰だろう。特に栄養ドリンクは助かった。
朝食、昼食は普段から手を抜いてカップ麺とか、気分によっては食べないこともあるので、唯一取れる栄養があって本当に良かった。
で、風邪が治ったことを西原に頼んであの子に伝えてもらった。
そして今日、俺は駅へと向かい、いつものところで立ってあの子を待っているわけだ。
気持ちが落ち着かない。
気を紛らわそうとスマホで適当にショート動画を見ているけど、気づいたら階段の方をチラチラと見てしまってる。
どんな顔して会えばいいのだろうか。
告白したようなもんだし、あの時、俺が狸寝入りしている時に頬に感じた感触。
あれはやっぱりそうだよな……。
初めての感触だったのに、何でわかってしまうんだ。
なんてことを考えていると階段の方からひょっこりと女の子の頭部が見え、徐々に顔、胸と姿が見えてきた。
「ふぅ……」
俺は短く深呼吸し付け焼刃のように気持ちを整え後、女の子のもとへ歩み寄る。
『おはよ』
スマホのメモ機能で打った文字を見せると、女の子も『おはようございます』と同じように見せてきた。
でも、明らかに俺から視線を逸らしていた。
改札を抜け、電車に乗る。
それまで特に会話はない。ここまではいつも通りだ。
ただ、一度もこちらを見てくれていない。
それが少し避けられているように感じてしまって、あの時頬に感じた感触は気のせいだったのかと不安になってきた。
俺は現実逃避をするかのように、いや、しているのかもしれないが、絶え間なく変わる窓の外の景色をボーっと眺めた。
つんつん。
突然、右手を誰かに突つかれた。
下を向くと女の子がこちらを見つめていた。手にはスマホを持っていて、視線が合うと手に持ったスマホで顔を隠しながら画面を見せてきた。
そこには、
『体調は大丈夫ですか?』
と書かれていた。
『大丈夫だよ。おかげさまで。差し入れ助かったよ、ありがとう』
『いえ、私がうつしたようなものなので。あの、今日お家にお伺いしてもよろしいでしょうか』
『いいよ』
理由は敢えて訊かなかった。
その時になったらわかるだろうし、それに、恥ずかしそうに顔を赤らめる今の女の子が理由を書いてくれるとは思えなかった。
『ありがとうございます。学校が終わってからになるのですが大丈夫でしょうか?』
『いつでもいいよ』
一日中家にいるからな。
何なら深夜でも問題ないくらいだ。
『ありがとうございます』
女の子は電車内だからか、控えめにぺこりとお辞儀した。
それから特に何もなく花楓駅に到着。
『途中まで送ろうか?』
『いえ、ここまでで大丈夫です』
そうスマホを見せてくる女の子はやっぱりちょっと視線を逸らす。
『おっけい。じゃあまた』
『はい。今日はありがとうございました』
久しぶりに見た気がする。女の子の深々と頭を下げる姿を。
遠ざかって行く女の子の後ろ姿を見えなくなるまで送った後、俺は帰路についた。
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