寝不足気味

「愛野さん、愛野さん起きて〜」

「んん……」


 誰かに肩を揺さぶられて初めて自分が眠っていたことに気がついた。

 ここずっと徹夜続きだったから襲い来る眠気に打ち勝てなかった。


「大丈夫? しんどかったら保険室に行く?」


 国語の女の先生が私の顔を覗き込んだ。

 授業中一度も眠ったことがなかったので、先生はとても心配そうな顔をしていた。


「だ、大丈夫です」


 私、授業中に寝てしまったんだ。

 先生の手を止めてしまったことに罪悪感が湧き上がった。


「申し訳ございません」

「いいのよ。もししんどくなったら遠慮なく言ってね」

「はい」


 俯く私の頭をポンポンと撫でた後、先生は教壇に戻り授業を再開した。


 チャイムが鳴って五分休憩。

 いつもなら勉強をするのだけど、今日は眠気に抗えなかった。

 仮眠をとっておかないと、次の授業に響くと言い聞かせて、私は机に突っ伏して目をつむった。


 その後の授業は何とか眠らずに受けることができた。

 四時限目の数学は少しうとうとしてしまったけど、ノートはとったし、授業内容は覚えてる。

 あとは忘れないように復習を欠かさずにすればいいだけ。


「一緒にたーべよ」


 お昼休憩になると決まって西原さんがお弁当箱を持って私の机にやって来る。


「愛野さん寝不足?」

「少しだけですが」

「そう? 愛野さんが授業中寝てるところ初めて見た。数学の呪文みたいな授業も起きてるのに」


 数学の授業は学級崩壊並みにほとんどの生徒が寝てる。

 先生がずっと黒板と向き合って淡々と喋ってるだけだから、眠くなりやすいのはわかる。

 寝たとしても先生は何も言わない放置主義者なので、ばたばたと眠っていく。


 私も眠たくないわけじゃなくて、眠ってしまったら授業に遅れるという恐怖感と罪悪感で意識を保ってる。


「美花は気づいたら寝てたよ」


 あはははは、と西原さんは呑気に笑っているけど、数学に限らず、ほとんどの授業を寝てる気がする……。

 中間考査が危ういのはそれが一番の原因だと思う。

 授業さえしっかり聞いていればある程度は大丈夫なはずなのに。


「ご飯食べたら眠くなるよね~、あ、でも次体育だからそんなことないか」

「そうですね」


 体育は苦手。

 昔から運動神経はあまり良くなかった。

 未だに覚えてるのは、小学生の頃、跳び箱で助走中にこけちゃったことがあって、その時に後ろにいた女の子からどんくさって笑われたこと。

 それにつられて周りの子たちも笑い始めて、顔が真っ赤になるほど私は恥ずかしかった。以来私は体育が好きじゃなくなってしまった。

 ずっと苦手意識がある。


 そんなことより、今日も勉強はできなさそう。

 だって体育だからあと少ししたら着替えに行かないといけないし。


 西原さん友達多いし、わざわざ私のところで食べなくてもいいのに。

 勉強教えてあげてるからそれで来てくれてるんだとは思うけど、気にしないでほしい。

 放っておいてほしい。


「じゃあ、美花そろそろ着替えてくる」

「はい」

「愛野さんも一緒に行こ」

「わかりました。少しお待ち下さい」


 もしかしてずっとこの調子で勉強する時間が削られて、夜更かしをしないといけなくなるのかな。


 夜更かしはなるべくしたくない。

 今日みたいに授業中に寝てしまうから。


 

 



 

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