お昼休憩

 私は、お昼休憩に購買へと足を運んだ。

 少し遅かったのか、パンは残り僅かだった。とりあえず目についた焼きそばパンを買って教室に戻った。


 いつもなら家の近くのコンビニでサンドイッチを買って、お昼休憩に教室で黙々と食べてるんだけど。

 ぐぅってお腹が鳴ったのが聞こえたの。もしかしたら朝ご飯食べてないのかなって。それで浩多さんに渡しちゃった。


 それにいつも眠たそうに欠伸してる。


 早く本当のことを言わないと。

 ボディーガードなんて本当は要らないってことを。


 そんなことわかってはいるんだけど、でも、勇気とタイミングが。

 いつもタイミングは見計らってるんだけど、勇気が出なかったり、言おうと覚悟決めてもタイミングが掴めなかったりしてる。


「愛野さん、お昼一緒にたーべよ」


 西原さんは自分の席から持って来た椅子を片手に、ニコニコしながら私の机の上にお弁当箱を置いた。


「いただきまーす」


 まだいいよって一言も言ってないのに、合掌してすぐに弁当箱を開ける西原さん。

 自由過ぎる。


「愛野さんいる?」


 お箸で出汁巻き玉子を掴んで見せてくる。

 綺麗に巻かれて美味しそうな出汁巻き玉子。

 でも、今はお腹一杯。


「申し訳ありませんが、遠慮しておきます」

「そっか、食べて欲しかったんだけど」

「お腹一杯なので……」

「それは仕方ないよ。でもそんだけで足りるの? 焼きそばパンだけだよ」


 出汁巻き玉子をパクッと一口で食べた西原さんはお口をもごもごさせながら訊いてきた。


「私はこれだけで大丈夫です」


 お昼休憩はなるべく自主勉強に充てたい。

 それに、元々小食だからこれだけでお腹一杯になる。


「美花だったらそれだけじゃ足りない。絶対お腹すくよ」

「そうなんですね……」


 焼きそばパンは食べ終えたし、中間考査に向けて勉強したい。

 けど、西原さんのお弁当箱に机の半分を占領されてる。教科書とノートを開くスペースがない。

 かといって、どけてもらうように言えなくて、このままだとお昼休憩が終わりそう。

  

「美花ちょっと太ったかな? 最近食べ過ぎちゃって、愛野さんどう思う?」

「太ってはないと思います」


 心当たりがありそうな感じだけど、太ってるようには見えない。痩せてるわけでもないけど、別に太ってるわけでもなくて、バランスの取れた健康的な体型だと思う。


「なんか愛野さんに言われると安心するよ。お世辞じゃないなって気がする。不思議とね」

「そうでしょうか……」


 お世辞を言ったつもりはないので、西原さんが言ってることは間違ってない。

 そんなことより、勉強しないとお昼休憩が終わりに迫ってる。


 お弁当を食べ終えた西原さんは、巾着で丁寧にお弁当箱を包み込む。


 お昼休憩が終わるまで後5分くらい。

 今から始めてもすぐにチャイムが鳴るし、今日は諦める……。

 家帰ってからその分いっぱい勉強するしかない。


「愛野さん、今日も放課後いいかな?」

「はい。大丈夫です」

「やった! ありがとね愛野さん!」


 無邪気に喜ぶ西原さんを見ていると、そんなに喜ぶことなのか疑問を抱かざるを得なかった。

 教えてもらえるからと言って点数が上がるわけじゃない。結局、本番は自分の力で解かないといけないのだから。

 西原さんがどこか浮かれてるように見える。


「そろそろ戻らないと。また放課後にね」


 西原さんが席に戻ってから数分後にチャイムは鳴った。


 勉強できなかった分は家に帰ってから。

 中間考査は絶対に満点を取るの。

 そしてお母さんが少しでも喜んでもらえたら。昔みたいに。


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