朝食
今日も電車に揺られながら、女の子の鞄の紐を握って支えている。
見たところ痴漢されてる様子はない。
よくされているとのことだったが、俺が人相悪いせいで近寄って来ないのかもしれない。
それはそれでいいのだけど、そんなに怖がられてると思うと自分の顔に自信がなくなってくる。
まぁ、自信なんて元々ないが。
それにしても腹減った。
普段はベッドの上で心地良く眠っている時間帯だし、駅まで数分も歩くことはない。
軽い運動をしているせいか、最近はこの時間にいつもお腹が空く。
帰りにコンビニに寄っておにぎりでも買うか。おにぎりはやっぱ明太子一択だな。
それか、趣向を変えてアイスでもいいかもしれない。
なんて考えているとさらにお腹が空いてくるもので、意思に反してお腹がぐぐぐっと鳴いた。
けっこう大きく鳴ってしまったが、誰にも聞こえてないよな。
例え聞こえてたとして、それがどうしたのかという話ではあるが、つい周囲の様子を伺ってしまうのは恥ずかしさからくるものだ。
下を向くと女の子がこちらを見つめていた。
かなり密着している状態だからもしかしたら聞こえていたかもしれない。
シンプルに恥ずかしいやつだ。
俺は何もなかった風を装って窓の外に視線を移した。
ちょうど牛丼屋が見えて増々お腹が空いてきた。
牛丼もいいかもな。
それから何度かお腹がぐうぐうと鳴ったが、それ以外は特に何事もなく花楓駅に到着した。
「今日もありがとうございました」
「あ、いや」
改札の前で深々と頭を下げられる。
もはや恒例行事と化しているが、悪目立ちするからほんと止めてほしい。
主に悪目立ちしてるのは俺なんだけど。
「じゃあ、これで」
お腹が空きすぎて仕方がないのもあるが、さっさと退散したくて女の子に軽く手を振って踵を返す。
だけど、女の子が俺の服の裾を掴んできた。
「あの、ご迷惑でなければなのですが」
女の子は鞄からコンビニのサンドイッチを取り出すと、それを俺に渡してきた。
「え、あ、いいの?」
これってお腹が鳴ったのバレてるよね。
このサンドイッチで我慢してくださいって言われてるような感じがする。
「購買がありますので、お気になさらないでください」
「ああ、じゃあ」
帰りに牛丼屋にでも寄って行こうかと思ったけど、せっかくの好意だ。貰える物は素直に受け取っておく。
これで朝飯代が浮いたな。
「それでは、私は行きますのでお気をつけてお帰り下さい。ありがとうございました」
「あ、うん」
深々と頭を下げた後、女の子は行ってしまった。
ありがとう、とお礼を言うタイミングを逃してしまったな。
女の子はもう既に人混みに紛れて見えなくなっていた。
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