第7話 無神経な男子と怪しい扉
月曜の朝というのは、やはり気分が上がらない。平日が5日で休日が2日というのが、そもそも生活リズムとして破綻しているのだ。
「ユウちゃんおはよーっす」
「ん、おはよ……」
「どしたのユウちゃん、ぐったりして」
「……お腹がちょっとね」
「ほーん。ウンコだったらすぐ出したほうがいいぞ!」
朝一番の愚痴もそこそこに。来寿はいつものテンションで教室に入ってきた。
そして、机に突っ伏している僕の様子にいち早く気づいた。
気づいたはいいものの、そこまで興味も心配するつもりもなかったようで、小学生のようなアドバイスをしてすぐに自分の席へ行ってしまった。
日曜日の夜、寝る前の時間帯に腹の調子がおかしいと感じたが、朝起きて確定した。
これはきっと生理痛だと。
だけど僕は、不安はあれど焦りを感じることはなかった。この日のために生理用品を用意しておいたのだ。僕はクローゼットから、隠していたブツを取り出して、装着した。ボクサーパンツだと少し違和感はあるが、充分だ。
土曜日、みんなと遊んだ帰りに買いに行った。最初に出る量は見当がつかないし、「多い日用」を購入した。
生理用品のコーナーに男の僕がいるのは恥ずかしく感じたのでそそくさとその場を離れ、レジの店員に変だと思われていないか心配になりながら、逃げるように退店したのを覚えている……
痛みを持ち越したまま授業が始まった。悪くなった食べ物を口にしたときの腹痛とはまた違った、なんとも言えない痛みだった。腹の内側から絶え間なくグリグリと硬いものを押しつけられているような、雑なマッサージのような……
たまにやわらぐ瞬間はある。だけどすぐにまた痛みが増したりと、波のようだった。
いつまでこれが続くのか。そればかりを考えながら、ようやく昼休みを迎えた。
昼休みになると、主にサッカー部員と食堂に集まる。僕と、他クラスの生徒2人。
今のところ血は出ていない。腹痛は朝と比べて改善したのでホッとした。
「にしても最近のエリナがさ、俺にめっちゃ当たり強いんよ」
「へー。てかお前ってエリナと付き合ってるんだっけ?」
2人ともこんな会話を始めた。色恋に関する話題はなんだか苦手だ。
「うん。そんでな、あまりにも冷たくされるからよ、俺も対抗するつもりでいろいろ構うんだよ。そしたらキレだして」
「え、どんな風に?」
「放っといてって言ってるでしょー! しつこいのよー、あっち行ってー!……みたいな感じで」
その様子だともしかして……
僕が察していたときに、その話を聞いていた片方がストレートに言った。
「それ生理じゃね?」
今となっては他人事ではない。僕は改めて他人が口にした「生理」という言葉に、少しだけ冷や汗をかいた。
「やっぱそうだよな。それにしたってよぉ、あんなに怒るとか意味わかんねぇよな!」
口に運ぼうとしていた箸が止まった。
というのも、この痛みに耐えて耐えてを繰り返しているときに、どの程度かは知らないが構ってほしいがためにまとわり付かれたら、と考えていたからで。
これにはさすがに反論の余地がある。
「なぁ、雄ちゃんもそう思うよな? そんなすぐキレんなってよ」
反論のタイミングは、向こうから投げかけてきた。
「……とりあえず、向こうから放っといてって言われたんでしょ? 言われた通り、そっとしといたほうが良いと思うよ」
「いやまぁ、そうなんだけどさ……構うなって突き放されたら、余計に構いたくなるっつうか」
「構うなって言われて構ったりなんかしたら、本当に構ってもらえなくなるよ。生理中じゃなくて、最悪ずっとね」
僕は普段、人の話は程よく肯定する立ち位置にいると自覚している。だからこそ、今回のように否定をするのは稀だし、2人の神妙な顔もはっきりと分かる。
気まずくなった僕は、食べ終わったお盆を持って席を立った。そして、最大限に気を利かせた捨てゼリフを彼らに放ったのだった。
「まぁでも、川村くんと一緒にいると楽しいし、大丈夫だと思うよ。もうちょっと紳士的になったら……惚れ直すかもよ?」
◉ ◉ ◉
5時間目と6時間目は、腹痛がおさまった代わりに「差し出がましいことを言ったか」という、モヤモヤした気持ちでいっぱいになった。
彼らは僕の言葉を笑ったのか、それとも余計なお世話だと不快に思ったのか……
考えても仕方ない。細かい気持ちまでは分からないし。
ひとまず僕は、顧問に「今日も休む」と伝えることを考えながら荷物をまとめる。
廊下に出ると、ちらほらと見える帰りの背中の中に来寿たちの姿があった。
来寿と愛奈さんは、何やら残念がりながら階段を降り始めた。
司くんはひとりで、階段とは反対の、別館へつながる通路に向かっている。
……もしかして、あそこに美術部があるのだろうか? 気になったことはあるが、別館そのものに行ったことがなかった。
僕は好奇心から、別館のほうへと足を踏み入れた。
殺風景な通路と対比して「ここが美術部か」とすぐに分かった。ドアにサイケデリックな塗装がされている……
「ん〜? 迷子かなぁ?」
ドアを開けるか迷っていると、突然聞こえてきた男性の声に心臓が止まりかけた。
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