第22話
父が留学生として転校してきて一週間が経った。依然として、父の人気は加速度的に増していくばかりで、その勢いは衰えというものを知らないようだった。父は授業ではその持ち前の知識と経験を存分に発揮して、先生やクラスメイトたちから感心されていたし、休み時間や放課後には持ち前の営業スキルで皆を楽しませていた。これは一種の転生無双ものといっても問題ないだろう。
学校では、滅多に父は俺に絡んでこない。というより、父は俺に構っている時間などなさげだった。父の周りにはいつも誰かいたし、父はその対応に追われていた。ただ、たまーに父が俺を凝視していることがあって、それは無意識だとは思うのだが、クラスメイトから変な誤解が生まれる前にその変な癖をどうにかして欲しかった。
教室に父がいる。それはやはり違和感でしかなく、毎日が授業参観の気分でもあり過ごしにくくはあった。だが次第に、父が教室にいることを忘れる瞬間も増えつつあった。
そして、文化祭までいよいよ残り一週間。
クラスは文化祭に向けて忙しなくなっていたし、我々一年生にとっては初めての文化祭で緊張もあってか、教室は少しピリピリとした雰囲気になっていた。 今週のHRも先週と同じように、授業内で文化祭のことについて話し合う時間が設けられた。
「今日のHRではコスプレ喫茶のシフトについて決定したいと思います。皆さんは二日間開催される文化祭で、最低でも一回は何らかのシフトに入ってもらいます。まずクラス以外の出し物で、文化祭にて予定がある生徒は挙手してください。その人たちから優先的にシフトを組んでいきたいと思います」
該当の生徒が手を挙げて、その人たちから順番にシフトを埋めていく。当然俺にアルバイト以外の用事などあるわけがなく、最後の余った枠にシフトをねじ込まれることになり、2日目の午前中にシフトを入れられた。もちろん、コスプレをするウエイターではなく地味な調理係だ。
コスプレ喫茶の衣装はクラスの手芸部の生徒たちが制作してくれるようだった。なんでも決められた予算内でやりくりするためには衣装を手作りするしかなく、俺を含めたクラスメイトたちは手芸部員に頭が上がらなかった。彼女たちが文化祭で影のMVPになることは間違いがない。表のMVPの第一候補は、あえて言うまでもなかろう。
衣装にお金をかける分、メニューはシンプルにポップコーンと飲み物各種ということになった。さっきは調理係だなんてかっこいい言葉を使ったが、ただ袋から取り出して、皿に均等に食料や飲料を配膳するだけの仕事だ。まあ、俺に花形のウエイターが務まるわけがないので、収まるところに収まったという感じだ。
やがて細かい打ち合わせが進み、その後は各パートに分かれて本番に向けての会議がそれぞれ開かれることになった。単調な作業を繰り返すだけの調理係に
会議の時間など5分もいらず、余った時間は自由時間となった。手持ち無沙汰に自分の席で座っているのもなんだか他のクラスメイトたちに悪かったし、トイレにでも行ってくるかと教室を出ると、ばやしこがそっと後をつけてきた。たしか、ばやしこも調理係だった。
「ばやしこ、シフトいつになった?」
「僕は初日の午前中だ」
「へえ、初っ端から出番なんだ」
「別に狙ったわけじゃないよ。偶然であるし、どの時間でも良かった」
「……そうか」
「……」
「……」
「……なんでついてきた?」
「哲にも知っておいて欲しい話があるからだ。今からまたあの踊り場に来てくれ」
そのまま教室へ帰っても、また気まずい時間を過ごすだけだったので、この時ばかりは素直にばやしこの後を追った。またまた例によって、屋上から一番近い踊り場へとやってきた俺とばやしこは話を始めた。
「それで知っておいて欲しい話って?」
「文化祭で蓮さんを護る件の話だ」
「それなら俺は手伝わないぞ?」
「分かってる。でも万が一の時のために、哲には俺たちの計画を知っておいてほしい」
それからばやしこが話し始めた計画の概要は、恐るべきものだった。
「先週、古尾谷蓮親衛隊を発足し、陰ながらメンバーを募集してきたのだが、発足して一週間経った今日、そのメンバーの人数は70を超えた」
「は?」
「おそらく一週間後の文化祭当日までに、その数は100を到達することになる目測だ」
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