アカツラ
「とりあえず来たはずの方向にもどろう」
後ろをふり返れば、そびえるような岩はある。でも前方に、来たはずの道はない。
最初、2人は岩穴にダッシュでもどって、もう一度外に出直した。でもやっぱりそこにはハシゴも岩場もなくて、明らかに来たのとは別の場所が広がっているのだった。
まるで化かされているみたい。
歩くほどに遠ざかっていく岩を何度もふり返りながら、めぐるは思った。
キツネを追いかけてこうなったのだから、なおさらだ。祐斗はタヌキと言ったが、タヌキだって人を化かすイメージがある。
野生のケモノ、しかも白色。めずらしさと神秘性を感じるには十分だった。
でもそれよりも、めぐるは自分とケモノとの間にかよった不思議な感覚につき動かされた。どうしても追いかけずにはいられなかった。
木々の枝葉にさえぎられ、やがて岩が見えなくなる。めぐるはふり返るのをやめて、少し前を行く祐斗に小走りで追いついた。
「岩、見えなくなっちゃった」
「ふぅん」
「もどれるように
「もどったって意味ないだろ。よくわかんないけど、ハシゴとか消えちゃったんだから」
きっぱり言われて、「そっか」とめぐるは納得した。確かに、岩穴から元の場所にもどれないことは確認済みだ。
「それより、サッサと歩いて山から下りないと。暗くなっちゃったらアウトだ。今どこにいるのかサッパリだし、スマホも持ってないから電話もできない。早く人のいるところに出ないと」
そう言ってため息をつく幼なじみを、めぐるは横目で見た。
自分と同じくらいの身長で、ひょろりとしていて、ありふれたショートカットだけど
でも、迷いなく歩を進めるその姿は、すごくたのもしかった。
しかし本来、山で迷ったときは来た道をもどるのが鉄則だ。
山はとにかく下に向かえば出られるというものではない。
2人はそんなことは知らない。
めぐるはすっかりこのまま帰れる気持ちになって、祐斗のとなりを歩いた。
「歩いてたら、さっきのキツネにも会えるかな?」
「タヌキな」
「だから、あれはどう見てもキツネだよ?」
「お前の目、くさってんじゃねーの」
「うわ、ひどっ!」
軽口が飛びかう。
だが、それも最初だけだった。
少しずつ疲れて、会話も減って。ついに2人は無言でへたりこんだ。
話し声も、落ち葉をふむ音もしなくなると、辺りはいやに静かだった。
空のせまさや、自分たちを取り囲む
風もない。鳥のさえずりもない。
まるで山全体が息をひそめているような、心臓が痛いほどの静けさ。
それを出しぬけに破ったのは、小枝をふむパキッという音と、草のこすれるかすかな音だった。
「危ない!」
同時に声がして、めぐると祐斗はドッとつき飛ばされた。地面に転がった2人の上を、赤い何かが飛びこえていく。
着地したそれはひらりと向きを変え、すぐさま2人に飛びかかってきた。そこに横から白いかたまりが現れ、体当たりをくらわせる。
思わぬ
「犬だ……」
祐斗が思わずこぼした。
2人をおそったのは、シバ犬よりもひと回り大きいくらいの犬だった。赤色の毛並みをしていて、目の周りやアゴの下だけ、より深みのある紅色をしている。
そして気づけば、その犬との間には2人を守るようにして2匹の白いケモノが立っていた。
「キツネ……!」
今度はめぐるが思わずこぼす。と、小さくて丸っこい方のケモノから不満げな声が飛んだ。
「タヌキもおるやん!」
「タ、タヌキがしゃべった!?」
「今はそんな場合じゃないんだよぉ」
「キツネもしゃべった!」
めぐるが目を白黒させている間に、再び赤い犬が飛びかかってきた。
白い2匹もキバをむき出し、地面をける。3匹はもみくちゃになって争い、辺りには赤と白の毛が飛び散った。
どうやら白いケモノは、赤い犬から2人を守ってくれている。最初に2人をつき飛ばしたのも、この白いケモノたちだろう。
雪のようにまっ白な毛がまだらに赤く染まっていくのを見て、めぐるは悲鳴をあげた。
「どうしよう!? 止めなきゃ!」
「加勢しよう! めぐる、リュックを持て!」
祐斗が背負っていたリュックをおろし、
祐斗とタヌキは、そして、めぐるとキツネは、目には見えない何かでつながっていた。
白いケモノがパッと飛びのいたところに、すかさず2人がリュックをたたきつける。そのすきに白いケモノがほんのわずかな息つぎをして、また
2人と2匹はおたがいのタイミングを完全に
ギャンッと大きな
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