別の世界と希望の光
「見て見て! うち、タヌキ火を出せるようになったやん!」
「おいらもキツネ火を出せるようになったよぉ」
白いケモノたちは空中にちろちろと火を灯し、うれしそうに飛びはねた。
先の戦いで血にぬれたはずの毛はふわふわのまっ白にもどり、
でも、2匹の片側の目じりには筆でスッと引いたような赤い模様がしっかりと残っており、
スマホがあればなぁ。
そんなことを、
しゃべる動物。
これを動画サイトにアップすれば、再生数はまちがいなくウナギ登りだ。
中学生になって、やっと自分のスマホを手に入れ、動画の
「うっはあ~、もふもふ~!」
めぐるが喜色満面でキツネにかけ寄る。
白い体に顔をうずめられ、キツネは迷わくそうに身をよじった。
ふと、キツネと祐斗の目が合う。うったえるようなまなざしを送られ、祐斗はじんわりとした同情を覚えた。
「うちのこともモフモフするやん? モフるやん!?」
そこにトコトコとタヌキがやって来る。キラッキラの表情だ。
全身から期待をほとばしらせるタヌキに思わず指先をのばしかけた祐斗だったが、視界のすみに夢中でキツネをなで回すめぐるが映る。ああはなりたくない。
グッと手を引っこめ、代わりにタヌキと会話してみることにした。
「お前ら、
しかし、それを聞いたタヌキはプッとふき出した。
「妖怪? 神使? 空想こじらせとるやーん!」
ケタケタ笑われ、祐斗の顔はみるみる真っ赤になった。
「な、なんで
結局、ヒーヒー笑い転げだしたタヌキがしゃべれるようになるまで、しばらくの時間を要したのだった。
「15歳になるまでの子どもには、必ずタヌキかキツネの
タヌキが言うには、そういうことらしかった。
「そんなの知らないよ!
となりでめぐるがハッと息をのんだ。
ふわふわの毛並みを十分に楽しんだ
「いやいや、連れてくるとか、そんなことうちにはできやんよ。さっきも言ったとおり、15になるまでは、誰もがタヌキかキツネの
かみ合わない会話に、祐斗はじれったい気持ちになった。
でも頭の片すみではわかっていた。なにせ、祐斗とタヌキはつながっているのだ。
おそいかかってきた赤い犬を
そして、自分が日本ではない、リュウセイという異世界に迷いこんでしまったのだということも。
同様に、白いケモノも、2人がこことは別の世界からやって来たのだということをわかっていた。
「知らない世界に来ちゃったの? もう……帰れないの?」
しぼり出すように言っためぐるの目からなみだがこぼれた。
何度も口を開きかけては閉じる。そうして胸にたまっていった感情がやがて
その様子に、祐斗の気持ちも引っ張られる。
タヌキには大笑いされたが、「なんで自分たちが選ばれたのか?」というのは大事なことだった。
だって、選ばれて
「泣かないで、めぐる」
ぺろりと、キツネがめぐるのほおをなめた。
とめどなく流れ落ちるなみだをていねいにぬぐう。でも一向に泣きやまないめぐるに、キツネも
「うひゃひゃひゃ! やめてー!」
たまらず、めぐるが笑った。
ぐちゃぐちゃになった顔が、なみだによるものなのか、ヨダレなのか、もはやわからない。
そのひどい有り様に、2人と2匹は声をあげて笑った。不安を吹き飛ばすようにたくさん、たくさん笑った。
それがおさまるとキツネはおもむろに、額の辺りでぽうと火の玉をうかべてみせた。
「さっき赤面をたおして、おいらたちは
火の玉がぽやんとゆらいで消えた。
「もっとたくさんたおせば、おいらたちのしっぽはもっと増えて、模様も立派になって、さらに強力で、新しい能力を使えるようになるんだよぉ。そうすればもしかしたら……」
少しだけためらい、キツネは続きを口にした。
「もしかしたら、めぐると祐斗が元の世界に帰れるような能力を、使えるようになるかもしれない」
パアッと、2人の心に陽の光がさした。
元の世界に帰れる希望は、まだある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます