お 出 か け ③

「あっ、お母さん」


 お母さん!?


 待て待て、ここに俺がいたらなんか誤解が生まれちゃう気がするぞ!?


「あら、舞がキッチンにいるなんて珍し――」


 花園さんのお母さんがボトッと持っていた荷物を落とす。


「ま、ままままま舞!」


 そして凄いスピードでキッチンに向かって走る。


「あの男の子は誰!? 彼氏!? 彼氏なの!?」


 そ、そんな驚くもんなんですかね……。


「母さん! そんな驚かないでよ!」

「そんな反応するって事はやっぱ彼氏さんなのね!?」

「違うから!」


 あんな慌ててる花園さん見た事ないや。


「彼氏さんじゃないなら何なのよ!?」

「お友達!」

「ま……舞にお友達ぃぃ!?」


 なんで彼氏ができてる時より驚いてるんだよ。


「そ、そうよ」

「一体どんな手を……はっ! 御挨拶ごあいさつが遅れました。私、舞の母の『花園 怜華れいかと申します」

「ぼっ、僕は岩井 了太と言います」


 いやでもまさか花園さんのお母さんと会う事になるとは……。


 というか早是帰って来ないし…………まさか、これもロマンチック展開っていうやつか?


 早是……ロマンチック展開じゃなくてど緊張展開になってるよ……。


「岩井君ね。本当にうちの舞と仲良くしてくれてありがとうございます」


 そう言ってめっちゃ頭を下げる。


「頭を下げないでください! 僕自身も楽しいですから!」


 そう言うと花園さんが少し視線を逸らした。


 ん? 俺なんか変な事言ったか?


「良かったわね〜舞、お友達できて」

「うっ、うん」


 なんか……照れてる?


 なんで?


「じゃ、私自室でこもってるから」

「え? お母さんご飯は?」

「食べてきたから大丈夫よ。舞……頑張りなさい」


 そう言って怜華さんは2階へと言ってしまった。


「頑張ってって……一体何よ……あっ、岩井君、すぐできるからね!」


 そう言って花園さんは再度調理器具と向き合う。


 な……なんか凄かったなぁ花園さんのお母さん。


 約10分後


「岩井君、できたわよ」


 はや!


 10分で料理できるのは早すぎない!?


 まさか……花園さんも愛花サイドなのか……?


 トレイに乗せられていた料理が机に並ばられる。


「さあ召し上がれ」


 机に並べられた料理(主に肉じゃが)は、めちゃくちゃ美味そうだった。


 いや10分でこれ!?


 やっぱ愛花サイドだったか……。


「いただきまーす」


 肉じゃがを取り皿に置いてから、一口食べる。


「うぐぅ!?」

「え!? だ、大丈夫!?」


 ぐおぉぉ…………。


 な、何が起こった?


 まず絶対に肉じゃがの味ではなかった。


「そんな! 変な味がするはず……ぐぼぉぁ!」


 花園さんから出ちゃいけない言葉出たって今!


「ご、ごめんなさい……」

「……パクッ!」


 意を決してもう一口。


「岩井君!? 何をして……ペッして下さいペッ!」


 その言葉を無視して飲み込む。


「あぁ!?」

「お……美味しい……です……」


 花園さん……料理苦手なんだね……。


「お、お腹壊しちゃいますよ!?」

「パクッ」

「岩井君!?」


 もってくれよ俺の体……。


 胃液が逆流しかけてるがそれごと飲み込む。


「せっかく作ってくれた訳ですし……残したら悪いかなと……」


 そう言ってまた一つ食べる。


「…………」


 花園さんは何も言わなくなった。


「パクッ」


 普通の食事の数倍は時間がかかったが……完食した。


「ごち……ごちそう……さまでした……」


 うおぉ……吐き気がエグいけど今ここで吐きに行ったら失礼にも程があるから行けない……。


「……ありがと……」


 花園さんは小さくそう言った。


 水を飲んで少しだけ横になる。


 初めて行った女性の家で寝転がるなんて失礼かもしれないけど、そうしないと死ぬ。


 そして段々と吐き気が治り、普通に座る。


「寝っ転がっちゃってすみません」

「ううん全然大丈夫。むしろ不味い料理作っちゃってごめんね……」

「それこそ大丈夫だよ」

「ほんとごめんね……」


 花園さんがしゅんとした顔になる。


 すまん、可愛いすぎんか?


「じゃあご飯を食べた事ですし、僕はそろそろ家に帰ろうと思います」

「あっ、そうね、もうこんな時間だしね。あっ、食器片付けちゃうね」


 なんか逃げるようにキッチンに行かれた気がする……。


 えぇー俺なんかやっちまっ……あ、寝っ転がったからか?


 やっぱ寝っ転がるのはダメだったか。


【探知】さん。こういう時どうしたら良いですかね?


 そう聞くと一つのやるべき事が頭に浮かぶ。


「……やってみるか」


 立ち上がってキッチンに行く。


「は、花園さん!」


 そう言うと花園さんはビクッとして


「え、ど、どうしたの?」


 と戸惑った顔をした。


「あー、えーと、そのー……ご飯、本当にありがとうございました」


 そう言って頭をペコリと下げる。


「えっ」


 めっちゃビックリしたような声が花園さんから出る。


「こ、こちらこそ……ありがとうございます……?」


 ……【探知】パイセン? この空気どうしてくれるんです?


 なんか気まずいっすよ?


「えーと、食器洗ったりしようか?」

「いやいや、大丈夫。私家事得意だから……料理以外」

「ははは……」


 こういう時ってほんとどうしたら良いの!?


 てか【探知】! マジで気まずくなったぞ!


「い、いや、料理作ってもらったんだからそのお礼に……とか」


 流石にこう言わないと気まずさで死ぬ!


「な、ならやってくれる?」

「うん!」


 ゴム手袋をはめてスポンジに洗剤をかけて揉んで泡を出す。


 そして食器をゴシゴシする。


 ただ……俺はもしかしたら全食器を割るレベルのミスをする可能性があるので、流し台に置いてゆっくり洗う。


「あ、洗い方独特だね……」

「家事下手だから……」


 ゆっくりだが少しずつ洗い終わっていく。


 そして数十分後――


「お、終わったぁー!」

「お疲れ様」


 リビングの椅子でグッタリとする。


 さ、皿洗いがこんなに集中力を使うとは思ってなかった……。


「じゃあ、その……そろそろ行くよ」

「あっ、うん、分かった」

「今日は本当にありがと」

「こっちこそ、不味い料理出してごめんね」

「大丈夫ですよ」


 そう言って玄関に行く。


「じゃ、じゃあ、また学校で」

「うん。また学校で」


 そう言って玄関の扉を開ける。


「あら、岩井君帰るの?」


 階段の上の方なら怜華さんの声が聞こえた。


「あぁはい。遅い時間ですし」

「泊まってけば良いのに〜」

「ちょ、お母さん!」


 ほ、微笑ましい……。


「妹がいるので」

「あら残念、でもいつでも泊まりに来て良いからね」

「はい、分かりました」


 そう言って外に出る。


「さよなら!」


 そう言って俺はドアを閉める。


「……花園さんの家にお邪魔しちゃったなぁ……」


 と呟きながら家に帰った。

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