悶々としすぎて眠れぬ夜

 電車に乗り、空いていた席に座る。


 そしてかばんを抱え込み、顔をうつむかせて今日あった事を脳内で何回も何回も再生する。


 よし、昼頃からあった事をありのまま話すぜ。


 昼飯を食べ終わる頃に幸せを届けに来た天使(自称)に【探知】というスキルを与えて貰って、その後人気者である早是君に書類を届けて【探知】で運命の相手を探したら学園のマドンナである花園 舞さんだった。


 うん、理解不能。


 今日一日で怒涛どとうの展開すぎないか?


 というか運命の人が花園さんってどういう事だ?


 てかまず幸せを届けに来た天使って何だ!?


 今日あった出来事がずっと頭の中でフル回転している。


『まもなくー、△▽駅ー、△▽駅ー、お出口は、左側です』


 あっ、俺の降りる駅だ。


 ……あれ? この駅に着くまで40分くらいは掛かるから……その間俺はずっとこの事について考えていたのか!?


 いやぁー……考えに没頭すると時が経つのは早いってよく聞くけどまさかここまで早いとは。


 体感的にはまだ10分も経っていないくらいだ。


 電車を降りて改札口から外に出る。


 辺りは学校にいた時よりも大分暗くなっていた。


「ふぅー」


 と一息ついて、いつも使っている通学路の道を歩く。


 今日は今まで生きてきた中で一番疲れた。間違いなく。


「ただいまぁー」


 そう言って扉を開ける。


「お帰りなさい!」


 そう元気に出迎えてくれた彼女は俺の妹の『岩井 愛花みなか』である。


 出迎えをしてくれる事から分かると思うが、兄妹仲はとても良い。


「今日の晩御飯はカレーです!」

「分かった、ありがとう」


 家事の大半は彼女がやってくれている。


 俺が料理以外ダメダメだった為だ。


 洗濯? 洗濯機が泡吹いてお亡くなりになったが?


 お風呂掃除? お湯が出なくなってパイプが破裂したが?


 その様な理由からやらせてもらえなくなった。


 てか何で俺はこれで料理が出来るんだ?


 世界七不思議に入れてもいいレベルだな。


 自室に行って私服に着替える。


 まあ家の中では大半がパジャマを着てるんだけどね。


 すぐ寝れるし。


「お兄ちゃん、カレー出来ましたよ〜!」

「すぐ行く」


 愛花は何故か俺に敬語けいごを使う。


 しなくていいと言ったんだけど、それでもやり続けている。


 今では慣れてしまって何とも思わないけど。


 リビングに向かい椅子に座る。


 親はいない。


 死んだとかじゃなくて、普通に出張に行っているだけだ。


 数ヶ月は帰ってこない。


「さあ召し上がれ〜! 妹特製美味美味いもうととくせいうまうまカレーをぉ〜!」

「凄ぇ名前だな」


 そんなカレーを一口食べる。


「どおですか?」

「美味いよ。凄ぇ美味い」

「良かったですぅ〜」


 褒められて上機嫌になったのかフンフンと鼻歌を歌いながら愛花もカレーを食べ始めた。


 だが正直言おう。


 味はしてない。


 いや別に愛花が料理下手な訳ではない。


 今日あった事の衝撃が強すぎて味がしないだけだ。


 味のしないカレーはこんな感じなのかと少し思いながら食べる。


 …………案外イケるな……。


 すぐに食べ終わってしまった。


「わっ、お兄ちゃん食べるの早いですね〜」


 そう言って目をパチクリさせる。


「あはは……まあね」


 そう苦笑いして食器をキッチンに置き風呂場へと向かう。


 湯船は基本的に妹が入れてくれている。


 ありがたやありがたや。


 愛花に感謝しながらシャワーを浴びて風呂に浸かる。


 ……花園さんが……運命の人……。


 勿論だが今のところ接点はゼロ。


 会話どころか楽園エデンにも行った事がない。


 要するにちゃんと容姿を見た事すら無い。


 向こうなんて俺の存在を認知しているかどうかも怪しいぞ?


 そんな人が運命の人? まさかそんな……。


「うぅーん……」


 自分の発した声が風呂場で少し反響する。


「お兄ちゃん……」


 と扉の向こうから声が聞こえた。


「うわぁぉあ!?」


 突然声をかけられたからびっくりして変な声を上げちった!


「大丈夫ですか!?」


 そう言って愛花が入ってきた。


「…………」

「…………」


 まっ、まさかこれが……恋ッ!?


 いや違う絶対違う。


「いやふつーに入って来ないでくれ」

「あっ、ごめんなさい……」


 そう言って愛花はドアを閉めた。


「で? どしたの?」

「そのぉ〜……黒き悪魔Gが出ちゃって……」

「分かったすぐに行く」


 即風呂を出て服を着て新聞紙ソードを作って愛花の元へ向かう。


 我が妹よ…………私が来たぁ!


「どっ、どこにいる?」

「さっ、さっきまではソファの所に……」


 ソファの下には……いないなぁ。


 そして顔を上げると壁を這う黒き悪魔の姿が……。


「チェストォォォ!」


 と叫んで新聞紙ソードでペチンとやる。


 うわっ! 落ちて仰向けあおむけになったから足をビキビキさせてる!


 きっ、気持ち悪い……。


 ティッシュで摘んでトイレにポイチャした。


「な、なんとかなったな……」

「そうですね……」

「んじゃ、俺は寝るから」

「おやすみなさ〜い」


 自室に入ってベットに横たわる。


 やっぱベットの上は最高だわぁ〜。


 …………運命の人が花園先輩……。


 暇な時はどうしてもこの事を考えちゃうなぁ。


『ピンポーン』


 ん? こんな時間に誰だ?


「はぁーい」


 玄関のドアを開ける。


「やほ」


 ………………幸天さん?


「……何でうちが分かったんですか……?」


 おいおいまさか付けられたのか?


「まあ天使パワーで」

「……はぁ〜」


 ほんとそのパワーヤバいな。


「じゃ、お邪魔しま〜す」

「え!? いやちょ!?」


 そんなズカズカと入らないでくれ!


「お兄ちゃん? どしまし――」


 ……愛花? 愛花ぁー?


 ハッ! 死んでる……!


「あれ? 妹さん立ったまま気絶しちゃってるよ?」

「あんたのせいだよ!」

「えぇ……私?」

「他に何があるんだ?」

「…………私が美人すぎて?」

「結局あんたが原因じゃないか」


 すぐにでも追い出したいけど、後で愛花に根掘り葉掘り聞かれるだろうからなぁー。


 その時に説明してもらう為にソファに座らせるか。


 いやまあ幸せを届けに来た天使というのを信じる訳ないだろうけど。


「それで、何の用です?」

「運命の人、探したでしょ?」


 ギクッ


「は……はい」

「はぁ〜……やっちゃったか」

「やっちゃいました」

「なんか禁忌的な事だと思ってやるのやめたりしなかったの?」

「まず俺に運命の人がいるなんて思わなくて……」

「…………ごめん、それは予想してなかった」


 俺も運命の人がいるなんて予想してなかったよ……。


「で? 運命の人は誰なの?」

「はっ、花園……先輩……です」

「…………え?」

「だから、花園先輩です!」

「……嘘でしょ?」

「マジです」


 マジなんだよ! ヤバいよ!


「本当に花園先輩だったの?」

「本当に花園先輩でした」


 ほんと自分でも信じられないけどね……。


「……まさか君とあの人が運命の人だなんて……」


 彼女がそんな事を言っていると愛花が蘇った。


「――はっ! お兄ちゃん! さっきの人は何です――」


 ………………良かった! 今回は気絶してない!


「この人は幸天さん。学校の先輩だよ」

「……彼女ですか?」

「そ」

「違う!」


 突然何を言ってるんだこの人は!?


「どっちなんですか!?」

「だから違うって、本当にただの先輩」


 それを聞いた愛花はホッとした表情をした。


「そうですよね、良かったですぅ〜」


 おいそれ遠回しに俺に彼女が出来ないって言ってないか?


「私はまあ、了太君にアドバイスなんかをしている人だよ」


 アドバイス? された記憶がない。


「へぇ〜。お兄ちゃん、女性と話せて良かったですね!」

「あっ、ああ」


 今まで話した事が無いという現実が痛い。


「取り敢えず愛花ちゃんが気絶している間に私の用件は終わったから帰るよ」


 そう言って幸天さんは帰っていった。


「……あれ? そういえば私幸天さんに自己紹介してましたっけ?」


 んー、どうだっただろうか? 覚えていない。


「まあ多分してたんですよね……ふわぁ〜、私はもう寝ますぅ〜、おやすみなさぁ〜い」


 そう言って愛花も自室へと向かった。


 ……俺も寝るか。


  自室に行ってベットに入る。


 ………………寝れない。


 今日あった事のインパクトが強すぎるわぁ!


 そしてそのまま眠れぬ夜を過ごすのであった。

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