第2話 好きに呼べ。
「わしの娘を嫁にやる。だからわしの術を受け入れろ」
魔王であるお父様の手先から闇に溶け込んでいく。同化の術だ。
「なっ?」と、ヨル・ダルフォンは慌てる。
「お、お父様」と、わたしは叫ぶ。
「問答無用!」と、勇者ヨル・ダルフォンは光の剣で斬りかかる。
ただ光の剣はお父様の身体の手前で止まる。
お父様の身体の半分はすでに闇へ溶けて行っている。その闇が勇者ヨル・ダルフォンを包み込む。翡翠の目がわたしを見つめる。
整った金の髪は風で揺れたかのように見えて、勇者ヨル・ダルフォンは軽く笑って、お父様の、いいえ、”わたし”の創り出した闇に同化していく。
「リズ……。いるか……。われはヨル・ダルフォンになった。」
「………。おれはフェンリル・ブライアなのか。いや、ヨル・ダルフォンであるはず。おれはおれはぁああああああああああああ」と、”何か”が頭を抱えて叫び出す。
「…お父様…。それともヨルなの?」
頭を抱えて叫んでいたお父様だった”何か”は、わたしを見つめてほほ笑む。
「好きに呼べ。おれはおれだし。あいつはあいつだ。腹が減った。紙をくれ。聖書でいい。紙をくれ」
「わかったわ、ヨル。よろしくね」と、わたしは収納魔法アイテムボックスから勇者を主神として崇める教会の聖書をヨルに渡した。
「食い物」と、ヨルは聖書を手に取って、つかめるページをつかみ、破り、食べた。
聖書を食べたヨルに魔力が戻っている。それとわたしの根源の悪魔の力がヨルに移動している。あっ?
ヨルの見ているモノが見えてきた。
視覚の共有。わたしたち、つながった?
「ヨル、聖書を貰いに行こ。あなたを祭る教会へ。ね、ヨル」
「…食い物、たくさん。行こう。」
ヨル、ちょっと壊れちゃったのかな。ちょっと受け答えおかしいかも。
鏡にわたしの姿が映る。
目の色が赤色からヨルと同じ翡翠に。黒くて長い髪は金色が混じっていく。染まっていく。
わたしはドレスを黒から赤へ変色させて、ヨルの腕に自分の腕を絡めて魔王城を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます