元勇者と一緒に暗殺業してます、わたし。

グイ・ネクスト

第1話 プロローグ

一つの異世界ゆりかごが揺れている。




黒き狼はその巨大な口を閉じて、揺れている異世界ゆりかご




見つめる事にした。




 異世界ゆりかごの中には、黒き狼の分身である魔王フェンリル・ブライアがいる。黑い髪をしていて、後ろでくくっている。目は真っ赤だ。それでいて執事のような燕尾服を着ていて、背の高い男の姿をしている。




今、異世界ゆりかごは死んで行くか。




生き残るか。




そういう瀬戸際にある。




 大天使ミカエルの加護と世界樹の加護を受けた金髪碧眼の勇者ヨル・ダルフォンは魔王フェンリル・ブライアと最後の死闘を演じている。




黒き狼はただ見つめている。勇者ヨル・ダルフォンが勝っても、食べる。


魔王フェンリル・ブライアが勝っても食べる。


異世界ゆりかごは黒き狼にとっては朝に食べるゆで卵のようなモノ。


塩をかけて食べるか、ゆで加減を間違えて半熟になるか。


そう、黒き狼にとってはその程度の問題だ。


異世界ゆりかごが生き残る事があるとすれば…。




陰と陽が手をつなぐとき。




死闘を演じている二人が手を取り合うとはとても思えない。




そう。本当に二人だけなら、黒き狼は食べていた。


この二人だけなら。




死闘を演じている側に、傍らに、魔王フェンリル・ブライアの娘、リズ・ブライアがいなければ。




そして勇者ヨル・ダルフォンにとっても初恋の相手、リズ・ブライアがいなければ。




黒き狼は食べていた事だろう。


そもそも戦いの理由が、「娘を嫁にくれ」と、勇者ヨル・ダルフォンが言って「だったらお前の力を示せ」と、魔王フェンリル・ブライアが答えた事から始まっている。




何度目か分からぬ組み合いを終えて、二人は距離を取る。




魔王フェンリル・ブライアは叫ぶ。


「わしの娘を嫁にやる。わしの術を受け入れろ」と。

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