第7話 死霊の森

 スケルトンたちが跋扈ばっこしている。ゾンビも次から次と地面から出没している。さらにスケルトンナイト、ドラゴンゾンビまでも現れる。ああ、世の終わりだ。もう私は生きてここから出られない。そんな顔を隣りの金髪の修道女マリアンナはしている。

「ひぃ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」と、金髪の修道女マリアンナは十字架を両手で胸に抱きしめて、目をつぶり祈りだす。

というか、謝っている。泣き出している。錯乱している。

「よく見なさい、マリアンナ」と、わたしは言う。

近づいてきたスケルトンの顎を触る。父親を食べられた娘の骨だったようだ。わたしの養分となって消えて行く。スケルトンナイトはわたしを守るように前を歩く。ドラゴンゾンビはわたしに背に乗るよう背中を見せる。

「ヨル、乗るわよ」と、わたしはヨルの腕に抱き着いてドラゴンゾンビの背に乗る。ついでに、マリアンナも乗せてやる。呪いで動くゾンビたちに担がせて。後ろから悲鳴が鳴る。よいメロディーだ。ちょうど夜だ。わたしは目を造るのを止めて、がらんどうの空虚な眼孔に戻す。目の奥に赤い光が宿る。拒絶の悪魔ルキフグス?そんな名前で呼ばれた事もあったわね。ずっと昔に。もう忘れたけど。髪の毛はヨルと同じ金髪に、わたしの右手には中身が白紙の黒い表紙の魔導書が現れ、風でパラパラとめくれていく。

魔術の神?雷の申し子?いろんな名前でわたしを呼ぶ。わたしはリズ・ブライアでしかないのに。マリアンナは失禁している。目は白目を向いている。理解がおよばないのだろう。いい表情だ。このまま食べてしまいたいぐらい。

ヨルは目を無くしたわたしを見て笑ってくれた。

さすがわたしの旦那様。

わたしも笑い返す。

「起きて、マリアンナ」と、わたしは強制的に魔術で起こす。

「ひゃう」と、マリアンナは目を覚ます。

「地獄へようこそ」と、わたしは笑う。

ドラゴンゾンビは翼を羽ばたかせて、上昇していく。

いい風だわ。瘴気が心地良い。まるで魔界に来たみたい。

死霊しりょうの森の魔女……ずっと忘れていたけど、思い出したわ。いちばん出会ってはいけないのは、両目を持たない金髪の魔女。それがどうして目の前にいるのよぉ」と、マリアンナはわたしを見ている。

「わたし?わたしはリズ・ブライアよ。覚えておいて、マリアンナ」と、にっこりとほほ笑む。目が無いまま。

「ひぃ」と、マリアンナはまた気絶した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る