第5話 お仕事です♡

 わたしたちは朝の5時に起きて、ヨルを崇拝する教会から南へ100メートルほど南下した。魔王城の朝に比べると、こちらは少し湿っていて、それでいて風があるためか、肌寒い。ヨルがそっとマフラーをかけてくれる。ちょっと嬉しい。ううん。すごく嬉しい。

【起きたか、リズ】

むぅ?その思考はお父様?

【ああ、わしだ。わしでは不満か】

ヨルだと思って嬉しかったのにぃ。

【なーに、もうすぐ交代だ。ほら、聖書を食べようとしているだろ】

聖書を食べるとヨルになるの?

【おはよう、リズ。そろそろ中央公園噴水前だな】

うん、おはよう。大好きよ、ヨル

依頼者、テラサはすでに来ていた。

わたしがヨルの腕に胸を押し付けているのが気に入らないのか、すっごく睨まれた。

「仕事忘れないでくださいね」

「もちろん」と、わたしは答え、舌を出して目をつぶる。

【リズ。指一本分の魔力を送る。噴水を利用して霧を濃くしてくれ】

はい、ヨル。人差し指に貯まった魔力を解放して、噴水に宿っている水の精霊の力も借りて霧を作り、徐々に広げていく。

「ちょ、ちょっと」と、テラサは混乱して声を上げる。ただ視界は何も変わらない事にテラサは落ち着きを取り戻していく。


「なんだ、急に霧が」

「どういう事、テラサ。まさか逃げる気なの?」

「落ち着け。ただの霧だ。テラサはいる。魔力感知を使え」

ターゲットも来ていたようだ。

へえ。結構優秀じゃない。でもわたしの霧はわたし自身でもあるのよねぇ。まあ、きっと理解できないとは思うけど。わたしとヨルの事は分からないわよ。それと依頼者もね。

テラサと同じ青色の髪をした男二人と女一人。

テラサは相手だけが周囲を視えずにあたふたしているのを理解したみたい。テラサは兄二人の後ろに回って、「さよなら」と、両手で兄二人の頭を撃ちぬくポーズをする。ヨルの手刀しゅとうが二人の首を静かに落とす。ヨルは仮にも剣聖で勇者だもの。お手のモノ。首から溢れ出る血はわたしの霧で吸収して、さらに霧を濃くしていく。地面に転がるはずの死体はデゥラハンとして動かす。

「きー何なのよ。魔力感知しても何もわかりゃしないじゃないのよ」と、テラサの姉は叫んでいる。手を振りまわし、暴れ疲れては、息切れを起こして座り込んでしまう。

テラサはそれを待っていたのかのように後ろへ回りこんで、「さよなら、姉さん」と、頭を撃ちぬくポーズを取る。

テラサの姉は後ろを振り向こうとして、そのまま首は右へずれて静かに落ちた。そして死体はデゥラハンとなり、動き出す。わたしは霧を解除した。3体のデゥラハンがテラサに近寄る。

テラサが震えている。「ああぅうわぁあああああああああああ」

見え始めたようだ。

「来ないで、来ないで、来ないで」今度はテラサが姉のように手を振りまわす。わたしはそっとテラサを抱きしめた。後ろから。

「ひぃ」と、テラサは叫ぶ。

「デゥラハンって知ってる?首の無い悪魔」

「首の無い兄さんたちと姉さんが…なんなのこれぇ」

「あなたの意思で殺したの。わかる?呪いってそういうものよ」

「いやぁいやぁいやーーーー」

「たった悪魔3体、使いこなしてみせて」

「そのまま悪魔たちに喰い殺されるか」と、ヨルが戻って来ていた。

「きゃ」と、わたしはヨルの腕に抱き着く。

「…………」テラサは黙り込んでしまった。

デゥラハンたちに身体をつかまれる、テラサ。

「ひぃ。いぎゃあああああああああ」テラサの両腕がちぎれる。

「リズ。まだダメだ……。ほら、ちょうどあそこに蛇がいる。だからまだダメだ」と、ヨルはつぶやく。

「そうねぇ」と、わたしはテラサが足をちぎられ、心臓をもぎ取られるのを黙って見ている事にした。依頼者が人間を止めるのを待つ事にした。

わたしは首を抑えて蛇様の頭にキスをする。

テラサから漏れ出る魂の欠片を蛇へと移す。

顔だけはテラサの顔をした蛇が生まれた。

「こんにちは。テラサ」と、わたしは声をかける。

「な、なんで…」

「あらぁ。ちゃんと約束は守ったでしょ。暗殺してあげたじゃない」と、わたしはテラサに言う。

「私に魔物として生きろって」

「わたし、使いこなしてって言ったわ。命令すればよかったのに。何も言わないから、あなた」

「そ、そんな。あ、悪魔」

「あらぁ。褒め言葉だわ。わたし、魔王の娘よ」

「ひぅ。でもでもぉ」

「経験を積めば、人型に戻る事もあるわ。精霊にだってなれるし。蛇様は進化先が多いのよぉ」

「経験って何を……。」

「同じ魔物を食べるの。簡単でしょ。そこにいるデゥラハンたちから食べてもいいわよ。麻痺毒とかあるでしょ。ほらぁ、そういうの使って。ね」

「……ほんと悪魔ですね」

「一応面倒は見てあげるから。優しいでしょ、わたし」と、わたしはヨルの腕に腕をからめたまま立ち去ろうとする。わたしの後ろで、テラサが麻痺毒を使用して肉親を食べている。進化には十分な量だ。テラサが進化先を選ぶ。彼女が選んだのは闇属性持ちのコブラ。

わたしは後ろを振り返り、「わたしのペットにしてあげる。ついて来なさい、テラサ」と、わたしは言う。

黒と赤の混じった目、コブラの頭に青い髪が残っている。テラサの面影を残したまま。身体は蛇そのもの。わたしにはぴったりのペットだわ。

わたしたちは教会へ戻った。

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