雷花

藤泉都理

雷花




 雷が落ちた地面に咲くという、彼岸花。

 その彼岸花には雷の記憶が込められている、らしい。






「はい」


 天空にて。

 てるてる坊主は、小さなその身体を隠さんばかりにたくさんの彼岸花を渡そうとした。

 何か記憶を失ったようだとしきりに首を傾げていた雷様に。


 てるてる坊主は地の精霊に聞いたのだ。

 彼岸花には雷の記憶が込められていると。

 だからとりあえず地上に降りて、目につき、持てるだけの彼岸花を抱えて天空へと戻って来たのだ。


「はい、どうぞ。雷様。この彼岸花たちに雷様の失われた記憶が込められているかもしれません。触ったらわかるらしいのでどうぞ」

「うむ」


 にこにこ笑うてるてる坊主が抱える彼岸花を、どうしてか雷様は浮かない顔で受け取ろうとも触ろうともしなかった。

 記憶が戻るかもしれないのにどうしたのだろう。

 てるてる坊主は首を傾げた。


「雷様?」

「うむ。うーむ。あのなあ。てるてる坊主」

「はい」

「何かなあ。記憶を失ったと落ち着かない気持ちになっていたが、しかし、失った記憶は失ったままでいいのかもしれないと、その彼岸花たちを見て思ったのだ」

「そう、ですか」

「すまんなあ。わざわざ地上に降りて彼岸花を見つけて天空まで持って来てもらったのにのう」

「いいえ。雷様がいいのならいいのです。では、ぼくはこの彼岸花たちを地上に戻してきますね」

「すまんなあ」

「いえいえ。では行ってきます」


 にこにこ笑ったまま、てるてる坊主は彼岸花を抱えて地上に降りて行った。


「うーむ。てるてる坊主には申し訳ないことをしたなあ。記憶を失って困っていると考えて、色々頑張ってくれたのに。うーむ。今度何か贈り物をするかなあ」


 雷様は何がいいかなと考えながらも、ふと、やっぱり試しに触っておけばよかったかなと思ってしまったが、すぐにやはりいいかと思い直し、てるてる坊主に何を渡せばいいかを風様に相談しに向かうのであった。











『あああああ!今日も!今日もっ。風様に好きだって告白できなかったあああ!もうっ。どうしてこんなに情けないんだおれはあ………あれ?おれは何で頭を抱えて蹲っているんだっけ?あれ?うーん。何だっけかなあ』

『どうしたんですか?雷様』

『ううーん。実はなあ。何か記憶を失くしてしまったようなんだが』

『え?そうなんですか?それは大変です!ぼく、記憶を取り戻せる方法を探してきますね!』

『いい、いい。自分で探すからっ。もう行ってしまったか。うむ。しょうがない。とりあえず、風様に相談してみるか』


 雷様は風様に相談したが、そんな方法は知らないと冷たく返されて、さっさと仕事に戻れと追い返されたのであった。


(ああ、仕事熱心な風様は素敵だなあ。よし!今度こそ告白を頑張ろう!)


 ん?

 あれ?

 今度こそ?

 初めて告白しようと思ったのではなかったか?


(うんまあいっか。よ~し。かっこよく告白しよ~っと)











(2023.5.13)



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雷花 藤泉都理 @fujitori

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